フランス文学記事|20世紀フランス文学史

20世紀フランス文学史

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 政変の相次いだ19世紀の後、フランス第三共和政はようやく安定軌道に乗ったかに見えた。しかし高度資本主義・帝国主義の時代を迎え、国内的には社会経済的な矛盾、国際的には植民地獲得をめぐる列強諸国間の争いが強まり、フランスもまた深刻な政治的・経済的対立状況の中に置かれることとなる。高まる緊張はやがて世界大戦(Guerre mondiale)をもたらし、ヨーロッパ諸国に癒しがたい傷跡を残した。ヨーロッパを震撼させた二度の大戦のなかで、作家たちもまた社会の混乱、人間性の危機の問題に直面させられる。20世紀の作家たちにとっては、世界の不条理に対してどのような態度をとるのかが、避けることのできない基本的な課題となったのである。

 戦後、第四共和政(IVe République, 1946)、第五共和政(Ve République, 1958)、五月革命(Révolution de Mai, 1968)と続く政治的混乱を経て、フランスもまた高度消費社会を迎え、思想の空洞化・精神性の枯渇が問われることになる。複雑性と変化のスピードをますます高める現代社会にあって、文学は政治・社会・経済との関わりを無視しては存立し得なくなった。この錯綜した状況に取り組むために、文学もまた隣接する学問・芸術分野との交流を迫られている。

 私たちの生きてきた20世紀に、文学はどのような証言を残し得たのだろうか。その真価は、現在と未来の人々によって定められていくことになるはずのものである。

第1次大戦前(1890-1914)

 世紀変わり目から20世紀初頭のフランスは、パナマ事件(1892)やドレフュス事件(1897-99)に象徴されるように鋭い政治的対立をはらみながらも、列強の一翼として安定した繁栄を遂げていた。後年ベルエポック(belle époque)として回顧されることになるこの時代には、前世紀の後半を彩った諸潮流が成熟していくとともに、新しい文学への胎動も始まる。世界大戦へ向けて政治情勢が緊張を高めるなか、作家たちは政治的・宗教的立場の表明を明確にしていくが、文学の大規模な刷新は依然として暗中模索の状態にあった。

1. 小説

 小説では、秩序と伝統を擁護するバレスブールジェらに対し、社会主義・無神論・国際主義などに関わりつつ解放と進歩を訴えるフランスロランがいる。

小説
解放と進歩 フランスロランフィリップ
逃避と冒険 ロチアラン=フルニエラルボー
秩序と伝統 バレスブールジェ

2. 詩

 詩の領域では、象徴主義の影響のもとで詩の刷新へ向けた試行錯誤が繰り返され、やがてカトリック詩人ペギー、シュルレアリスムの創始者ともされるアポリネールの登場をもって、現代詩の開拓が始まる。

新象徴主義 サマンレニエ(アンリ・ド・)ヴェラーレンメーテルランク
カトリック詩人 ジャムペギー
新ロマン主義 ノアイユフォール
新しい潮流 アポリネールジャコブサンドラール

3. 演劇

 演劇は世紀初頭まで因習や技巧にとらわれ、やや安易な一時期を迎えていたが、世紀最大の劇作家クローデルが現れ、キリスト教的宇宙観に立った壮大な劇作を発表していく。

演劇
クローデル
市民劇 ルナール(自然主義)|ポルト=リッシュ(恋愛劇)|キュレル(思想劇)|ロスタン(新ロマン派)
軽演劇 クールトリーヌ(風刺劇)|ジャリ(笑劇)|フェードー(軽喜劇)|ベルナール(軽喜劇)

4. 批評

 批評の分野では、前世紀のテーヌの理論を踏襲しながら実証性やアカデミズムをめざす客観主義の方向と、実証的研究を離れて作品を純粋に鑑賞しようとする印象主義(impressionnisme)の方向とが、この時期の基本的な対立軸をなした。

批評
ブリュンチエールルメートルファゲランソン

両大戦間(1914-1940)

 第一次大戦の混乱はフランス文学を一時的な停滞に陥れたが、1918年の休戦により相対的な安定期が訪れる。戦争の不安から解放された作家たちは表現形式の刷新、人間の深層世界の自由な探求へとのりだし、世紀初頭から準備されてきた多様な文学潮流の成熟とも相俟って、戦間期の文学を活気づけた。しかし1930年代に入り再び国際的緊張が高まるにつれ、あるものは政治的行動へ、あるものは絶対者の探求へと向かい、個人を超える尺度への関心が強まる。

1. 詩

 ネルヴァル、ランボー、アポリネールなど想像力を理性から解放した詩人たちの影響のもとに、ブルトンアラゴンらが1920年代に起こした運動が、シュルレアリスム(Surréalisme)である。イメージを優位に置いて夢・狂気・無意識の世界を探求しようとするシュルレアリスム芸術は、理性・道徳・秩序などあらゆる拘束から人間を解放しようとする試みにほかならなかった。いっぽう、これらの詩人からは距離をとりつつ、世紀最大の詩人ヴァレリーが現れ、厳密な主知主義に立つ詩作をおこなった。

ヴァレリー
シュルレアリスム ブルトンエリュアールアラゴンデスノス
のちに運動から離脱
シュルレアリスムの周辺 シュペルヴィエルルヴェルディジューヴサン=ジョン・ペルス

2. 小説

 この時期の小説は多彩な展開を見せた。重要な作家としては、時間と記憶をテーマにした哲学的大作『失われた時を求めて』を残したプルースト、透徹した自己省察を通してたえず自我の問題に直面し続けたジッド、ロランの大河小説の方法を受け継ぐロマンマルタン・デュ・ガール、人生や社会の閉塞を冒険と闘争によって打破しようと試みるモンテルランマルローサン・テグジュペリ、信仰と神の問題を追究するモーリヤックグリーン、鋭い感性で愛や嫉妬の問題を描き出すコレット等、枚挙にいとまがない。

小説
内面の探求 プルーストジッドラディゲラクルテル
現代社会の壁画 ロマンマルタン・デュ・ガールデュアメル
英雄的行動 モンテルランマルローサン=テグジュペリ
カトリック作家 モーリヤックベルナノスグリーン
社会小説 バルビュスシャンソンシムノンセリーヌ
農民小説 ラミュプーラボスコジオノ
その他 コレット

3. 演劇

 アントワーヌ、リュニェ=ポーらの改革の努力を受けた、「コポーと四人組」と呼ばれる一群の演出家たちの活躍が目立つ。劇作としては、伝統的な喜劇、心理劇のほかにシュルレアリスム系の前衛劇など多様なジャンルが入り交じって展開されたが、「三人のジャン」すなわちコクトージロドゥアヌイが特に重要である。

演劇
喜劇 ギトリー(ブルヴァール劇)|ドヴァル(ブルヴァール劇)|クロムランク(ブルヴァール劇)|ブールデ(風刺劇)|パニョル(風刺劇)
心理劇 ヴィルドラック(内面派)|ルノルマン(激情派)
前衛劇 アルトーヴィトラック
三大劇作家 コクトージロドゥアヌイ

4. 批評

 両大戦間フランスの文芸批評は、ジッド、シュランベルジェらによって1909年に創刊された文芸雑誌N.R.F.(La Nouvelle Revue Française; 新フランス評論)」を拠点として展開される。N.R.F.は研究、批評、外国文学の紹介などを通じて読者を啓発したが、ほかにフローベール研究で知られるチボーデ、スタンダールやバルザックの分析で名高いアランなども、それぞれ独自の批評活動を繰り広げた。

批評
N.R.F. リヴィエールポーランドリュ・ラ・ロシェルアルラン
その他 レオトーシュアレスチボーデデュ・ボスアランモーロワ

現代(1940-)

 ドイツ占領下のフランスで、作家たちもまた政治的立場の決定を迫られる。一方にドリュ・ラ・ロシェルやモンテルランなどの対独協力派がおり、他方ヴァレリー、ジッド、クローデル等の大家は沈黙によって拒否を表明した。このころファシズムに対抗しフランス文化と人間の尊厳を擁護しようとするレジスタンス運動が組織されていくが、この運動のなかで生まれたのが、暴力の拒否や人間への愛情を情熱的に謳いあげる「抵抗の文学」である。

抵抗の文学 ヴェルコールヴァイヤン

 抵抗文学の中から現れ、戦後まず一世を風靡したのが、サルトルカミュを中心とする実存主義(existentialisme)の文学であった。実存主義者は「本質に先立ってある人間存在(=実存)」を出発点とし、世界の不条理に深く絶望しながらも政治闘争への積極的参加によってニヒリスムを超克しようとした。

実存主義の文学 サルトルカミュボーヴォワール

 実存主義はヴィアンなどに引き継がれるが、同時に1950年代にはいると実存主義への反動が起こり、サガンの小説に象徴される非政治的、心理主義的な作品が登場する。この傾向の延長線上に、政治的要素を文学から意識的に排除しようとするヌーヴォー・ロマン等の諸潮流が展開していく。

1. 小説

 ロブ=グリエビュトールの作品が属するとされるヌーヴォー・ロマン(nouveau roman)とは、現代の不安や人間への不信を抱き、時代や社会をあえて無視することでそれに直面していこうとする態度のもとに書かれた小説群のことである。その基本的な特徴は(1)物語性の放棄(2)登場人物の性格の消失、にあり、人格を持った主人公とつじつまの合った筋によって構成される伝統的な小説形式を破壊することを意図している。デュラスの立場もヌーヴォー・ロマンに近い。

小説
伝統的小説 バザンペールフィットトロワイヤヴィアンドーテル
非政治的傾向 ニミエサガン
シュルレアリスム系 グラックマンディアルグクノー
ヌーヴォー・ロマン サロートロブ=グリエビュトールシモン
ヌーヴォー・ロマンの周辺 デュラスソレルス

2. 詩

 抵抗文学の終焉とともに詩壇は解体し、詩人たちは大衆から孤立して独自の道を歩んだ。それぞれ詩の力を強く信じ、熱狂的な讃美者を獲得している。

ポンジュミショープレヴェールシャールエマニュエルボヌフォワ

3. 演劇

 ヌーヴォー・ロマンと歩調を合わせるようにして、伝統的な舞台慣習に挑戦するヌーヴォー・テアトル(nouveau théâtre)の動きが興る。ベケットジュネイヨネスコらは、時間・場所・人物の性格・筋などが不明瞭な劇を創作して、現代生活の不条理を提示した。

演劇
詩的前衛劇 ゲルドロードシェアデピシェット
ヌーヴォー・テアトル ベケットアダモフジュネイヨネスコ

4. 批評

 ロマン、テアトルと同様、1950年代に批評界に起こった改革がヌーヴェル・クリティック(nouvelle critique)である。バシュラールブランショといった先駆者の影響のもとで、バルトに代表される一群の批評家たちは、伝記や資料による伝統的な文学史的研究を離れ、記号論や構造主義にもとづく作品解釈を施していった。

批評
ヌーヴェル・クリティックの先駆者 バシュラールブランショバタイユ
ヌーヴェル・クリティック バルトルーセゴルドマンプーレリシャールスタロバンスキー

5. 1970年以降

 1968年の「五月革命」を境目としてフランスも高度消費社会を迎え、イデオロギー信仰が崩壊するなか文学の不振が叫ばれるに至る。1970年代以降のフランス文学は、ソシュールの言語学・レヴィ=ストロースの文化人類学の流れを受けるフーコー構造主義(structuralisme)の思想などと関わり合いながら、多種多様な模索を続けている。

1970年以降の文学
小説 ユルスナールトゥルニエル・クレジオモディアノペレックエルノーサルナーヴエシュノーズトゥーサンペナックキニャールクンデラビアンシオティアレクサキスクリストフマキンギベール
デュ・ブーシェフレノーデュパンジャベスガスパールレスキュール(ウリポ派)|ルーボー(ウリポ派)|ジャコテドゥギーボスケプレネ(テルケル派)|ロッシュ(テルケル派)|デルヴァーユオカールメショニックレダヴナーユ
演劇 ベロンヴィナヴェールグランベールシクススブリスヴィルコピコルテスノヴァリナヴェンゼルドゥーチ
批評 ジュネットトドロフグレマスクリステヴァデュラン(ジルベール・)ベルマン=ノエル
哲学・思想 フーコーラカンドゥルーズデリダ

参考文献

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