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第12巻 生きる喜び
La Joie de vivre, 1884

生きる喜び 双書中に4冊ある「休息と気晴らし」の作品のひとつ。7巻ぶりに悪徳の都・パリを離れ、美しい漁村ボンヌヴィルを舞台に、マッカール家系で最も幸福な幼年期にめぐまれたポーリーヌ・クニューの愛と青春の時代を描く。雄大な海の情景、善意にあふれるポーリーヌの健康な成長、生命に対する限りない肯定などを主題とし、刊行当時の青年たちに影響力を持っていたショーペンハウアーの厭世思想へのゾラの回答を示した作品ともなっている。重く凄惨な次巻『ジェルミナール』開幕に先立つ、嵐の前の静けさを思わせる名品。
(画像はfolio版の表紙より)→拡大画像(新ウィンドウが開きます)

基礎情報
長さ:328pp(双書中12位)
舞台:1862年4月〜1876年、ボンヌヴィル
主人公:ポーリーヌ・クニュー(孤児、11歳〜25歳)
資料と分析
章立てと展開
登場人物総覧
抜粋集
優柔不断王ラザール

あらすじ

 10歳で両親を失った少女ポーリーヌは、父の従兄であったシャントーの養女となり、パリから、さびれた漁村ボンヌヴィルに移り住む。雄大な海のふところで健やかに成長するポーリーヌは、やがてシャントーの息子ラザールとの間に兄妹のような愛情を育み、二人の間に婚約が交わされる。
 しかし厭世思想の影響を受けたラザールは死への恐怖に取りつかれていた。化学・医学・事業など、何をやっても長続きしないラザールを、ポーリーヌは辛抱強く励ますが、ラザールは事業家の娘ルイズと親密になってゆく。ラザールを愛するゆえに婚約を撤回してルイズと結婚させたポーリーヌはボンヌヴィルを去ろうとするが果たせない。
 いっぽう、ラザールは結婚後すぐにルイズと不和になり、ボンヌヴィルに戻ってきてはポーリーヌの世話を受けていた。この結果にポーリーヌは打ちのめされるが、それでも生きる希望を失わない。ポーリーヌはルイズの分娩に立ち合って、早産で死ぬはずだった未熟児の命を救い、この子ポールを我が子のように育ててゆくのだった。

主な登場人物

ポーリーヌ・クニュー
 本作の主人公。第3巻『パリの胃袋』のリザ・マッカールのひとり娘である。10歳までをパリで過ごしたため垢抜けた振る舞いも身についているが、実は少しいじめられっ子だったのであり、本来は素朴で不器用な性格と思われる。感情がすぐ態度に出るので、誰もがちょっかいを出したくなるのであろう。とはいえ、まったく嫌味でなしに善良な魂の持ち主なので、非常に好感がもてる。
ラザール・シャントー
 ポーリーヌのまたいとこ。優柔不断王。言うことだけはスケールが大きいものの、実行が伴わないへなちょこ青年。失敗するのは自分の努力が足りないせいなのに、愚かな大衆が邪魔するからだと言い張る。死の恐怖にとりつかれ、生命を嫌悪しているらしいが、そのくせ、ちゃっかり結婚して子どもを作っている。しかし、真面目に育てようとはしない。なんなんだおまえは、と嘆息するほかはないであろう。
ルイズ・チボーディエ
 シャントー家と知り合いの銀行家の娘。のちにラザールと結婚するが、あまり情熱的な恋愛関係にあったわけではない。そこそこ美人、そこそこおしゃれ。別に悪人ではないが、とびぬけて優れた素質もない。要するに親が金持ちなだけの普通のコ。ある意味、ラザールに振り回された犠牲者のひとりとも言える。
シャントー
 ポーリーヌの養父、ボンヌヴィル村の村長。痛風のため動くことができず、ポーリーヌの看護を受ける。ポーリーヌがラザールとの関係に絶望して村を去ろうとする時に、いつも足かせになるのがこの人である。美食家で、痛風の発作が起こって苦しむのがわかっているのに美食をやめられない。肉体的に不健康にもかかわらず物語の最後まで生き延び、「自殺するとは、ばかなやつだ!」という締めくくりの文句を吐く。結論の賛否はともかく、あんたにそれを言われたくはない、と思うのは私だけであろうか。
シャントー夫人
 ポーリーヌの養母。もともと金銭面ではしまり屋で、ポーリーヌの遺産も公明正大に管理していたが、息子を溺愛しすぎるあまりポーリーヌの遺産に手をつけるようになっていく。息子を甘やかしすぎることさえなければ、文句なしに立派な主婦だったはずなのだが……。
ヴェロニック
 シャントー家の女中。シャントー夫人と同じく几帳面なやかまし屋で、家の中が乱れるとすぐにぶりぶり怒る。厳格な主婦であるシャントー夫人を尊敬しており、夫人がポーリーヌの遺産に手をつけたときに憤ったのも、夫人を尊敬していたからこそのことであろう。夫人の死後、家の中がルーズになってゆくのに耐えきれなかったらしく、結末で自殺してしまう。女中とはいえ、けっこう複雑な内面をもった女性である。
カズノーヴ先生
 ボンヌヴィル村の医者。ポーリーヌの後見人的な役割を果たす誠実な人物。ただ温厚なだけかと思いきや、ときどき鋭い指摘や意味深な発言を洩らす。本作におけるゾラの代理人とも見える。
 
 

翻訳文献

本作の訳書は少ないが、筑摩世界文学大系に収録されている河内清氏による翻訳は、決定版ともいえる優れた訳である。また、セレクションに収録の中島孤島訳は坪内逍遥が監訳しており、一見の価値はあるだろう。

 書名訳者発行所発行日訳文備考
 「ルーゴン=マッカール叢書」セレクション7 生の悦び中島孤島本の友社1999/06/10C
大正3年早稲田大学出版部版の復刻
推薦世界文学大系41 ゾラ河内清筑摩書房1959/02/20A『居酒屋』、『実験小説論』を併録
訳文:A=現代的かつ平易・B=やや古いまたは生硬・C=非常に古い

関連事項

DATA:『生きる喜び』
書評:『生きる喜び』

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