エチエンヌ・ランチエ |
---|
本作の主人公、もと機械工。『居酒屋』のジェルヴェーズの三男である。酒を飲むと人を殺したくなるという遺伝的性格と戦いながら、労働者の解放をめざす。完全な人間でも人並みはずれて優秀な指導者というわけでもないが、独学を続けながら真理にめざめていく。『ルーゴン家の繁栄』のシルヴェール少年を思い出させる。 |
|
カトリーヌ |
---|
坑夫マユの娘。15歳にしてすでに運搬婦として炭坑で働いている。ブルジョワの一人娘セシールと好対照をなす人物である。日の光にあたらないので発育は遅く、エチエンヌに男の子と間違われたりする。実際、このとき彼女はまだ初潮を迎えていない。従順だった彼女が、激昂する群衆に同化して兵士に煉瓦を投げつける場面は感動的である。 |
|
ボンヌモール |
---|
足の悪いマユの父親。長年ヴォルー坑で働いたのち、五年前から炭坑の馬方となる。石炭が体に染みこんでしまったかのように、黒い痰を吐く。生涯にわたる労働の引き替えに彼が得るはずだった、会社からのわずかな年金は、彼がストライキに参加したことであっさりと撤回されてしまう。このおとなしい老人が物語の最後に犯す「白痴の犯罪」は、本作の主題を象徴する重要な事件である。 |
|
マユ |
---|
善良でまじめな採炭夫。過激な主張をしないので会社からの評判も良く、そのためにストライキではエチエンヌとともに会社との交渉役にあたる。彼の控え目な申し出はまったく正当であり、エンヌボーがその要求を拒んだとき、ヴォルー炭坑の悲劇は運命づけられたのだといえよう。 |
|
マユの女房 |
---|
マユとの間に七人の子どもを生み育てた、典型的な炭鉱の女。貧乏に打ちのめされる坑夫の妻から分別ある労働者意識に目覚めた炭坑婦へと、この作品を通じてもっともめざましい変化を遂げる人物のひとりである。結末において、今度こそは大きな打撃をあたえてやろう、という無言の約束をエチエンヌとの間に交わす姿はまことに頼もしい。 |
|
ザカリ |
---|
マユ家の長男。フィロメーヌと結婚して早々に新所帯を構えてしまい、ザカリの稼ぎをあてにしていたマユの女房をがっかりさせる。いつもムークなどと連れ立ち政治的には日和見的だが、カトリーヌが坑底に閉じこめられた時には兄としての愛情に駆られて懸命に救助にあたる。だが、救助作業を急ぐあまり危険を顧みず、事故死。 |
|
ジャンラン |
---|
マユ家の次男。本作随一の悪童であり、ベベールとリディを指揮してわるさの限りをつくす。のち落盤事故で重傷を負うも一命をとりとめる。レキヤール廃坑の奥にねぐらを作り、あちこちの商店からかっぱらった戦利品を隠している。ストが長期化するなか、歩哨に立っていた新兵ジュールを明確な理由もなしに殺害。ある意味、たくましい少年ではある。 |
|
アルジール |
---|
マユ家の次女。マユ家の子どもたちのうち炭坑に働きに出ていない子どもとしては最年長であり、9歳にしてマユ家の主婦役を務める。学校にも行けず栄養も十分でないのに、文句ひとつ言わずに働き、過労と飢えと寒さから病にかかり、死んでいく。『居酒屋』のラリーを思い出させるような、完璧に罪のない少女である。 |
|
ルヴァク |
---|
マユの隣人。物語開始当初はマユとともに組をつくってヴォルー坑の同じ切羽で働いている。あまり目立つことのない、ごく普通の貧しい坑夫であり、発砲事件の際に逮捕されること以外はいまひとつ印象が薄い。 |
|
ルヴァクの女房 |
---|
マユの女房の話し相手、かつ喧嘩相手。同居のブートルーとの間に関係をもっているという中傷を流されているが、これは真実ではないようである。亭主と同様、作品中での印象はあまり強くない。 |
|
ブートルー |
---|
ルヴァク家に同居する土工。採炭夫であるルヴァクが昼勤なのに対して土工は夜勤なので、二人の男は同居することができるのである。ストに対しては、どちらかというと日和見的な立場にいる。 |
|
フィロメーヌ |
---|
ルヴァク家の娘。ザカリと関係をもち、すでに二人の子を出産している。食い扶持を減らしたい母親の意向もあってザカリとの正式な結婚を望んでいる。ザカリが死ぬといっときは涙を流すが、すぐに立ち直る。まあ、こんなもんであろうか。 |
|
ベベール |
---|
ルヴァク家の息子。ジャンラン一味の最年長だが、グループ内での立場は弱い。虐げられる者としての同類意識からかリディとくっつき、発砲事件のさい彼女と抱き合って死ぬ。 |
|
ピエロン |
---|
マユ家の向かいに住む坑夫。スト破りの裏切り者で、エンヌボーと通じスパイ的役割を果たす。その代償に、彼の家はストライキ中でも食料を確保できるのである。 |
|
ピエロンの女房 |
---|
ピエロンとともに夫婦そろって卑屈者。夫の黙認のもとで監督頭ダンセールと情を通じて生活の安全を確保し、おしゃれや室内装飾など、みみっちい贅沢を尽くし、マユの女房らを中傷する。 |
|
ブリュレ婆さん |
---|
ピエロンの女房の母親であるが、娘夫婦とは対照的な反逆的な老婆。思想よりも生活態度そのものが過激であり、メグラの死体から男性器を素手でひっこ抜くという凄惨な所業に及ぶ。 |
|
リディ |
---|
ピエロンの先妻の娘。ジャンランの子分であり、殴られ、こき使われる。乱暴な労働者家庭の女をそのまま小さくしたような立場であり、ベベールとともに殺される不遇な少女。 |
|
ムーク |
---|
レキヤール廃坑に住むボンヌモール爺さんの親友。ヴォルー坑で馬丁をつとめ、バタイユ(坑底で働く馬)のことを知り尽くしている。ボンヌモールとともに、黙々と労働に耐える古風な労働者。 |
|
ムーケ |
---|
ムークの息子。ザカリと友人で、いつもいっしょに飲み歩く。ストに対する態度もザカリと同様、日和見的。けっこう頻繁に登場するわりにはこれといった活躍はない。 |
|
ムーケット |
---|
ムーケの妹。坑夫のうちでも評判の奔放な娘で、気が向きさえすればあれこれの坑夫と気軽に関係をもつ。ストライキにはお祭り気分で参加。彼女が人を侮辱するときの得意技は、いきなり尻を見せることである。 |
|
シャバル |
---|
ヴォルー坑で働く炭坑夫。カトリーヌに目をつけており、物語のはじめからエチエンヌとライバル関係に立つ。カトリーヌを犯して無理やり同棲させるが、ごくまれに優しい振る舞いも見せる。坑底でエチエンヌに殺される。 |
|
ラスヌール |
---|
酒場アヴァンタージュ軒の主。もと採炭夫。エチエンヌが登場するまではモンスーにおける労働者運動のリーダー格で、漸進的改良による労働者の解放を信じている。発砲事件後、支持を回復。 |
|
プリュシャール |
---|
エチエンヌのもと上司で、リールの労働者運動の指導者。職業革命家で、煽動に長ける。実際の出番は一度きりであるが、物語の最後でエチエンヌを呼び寄せ、政治の世界に引き込むことになる。 |
|
ランヴィエ師 |
---|
モンスーに赴任してきた過激な説教をする司祭。彼の思想は急進的カトリシズムで、資本の搾取に対して神の天罰が下ると信じている。だが、ストライキ中の労働者にはあまり支持されていないようである。 |
|
ジュール |
---|
プロゴフ出身の新兵。軍隊による労働者の鎮圧政策に疑問を抱きつつも、命令に対しては従順に従い、モンスーの歩哨を務める。雇われ兵士の葛藤の体現者であり、帰郷を夢見るが意味もなくジャンランに殺害される。 |
|
スヴァーリン |
---|
ロシアから亡命してきた、少女のような顔をした金髪のアナーキスト。バクーニンの影響を受けた彼の思想は作中もっとも過激なものだが、その陰には傷ついた魂が見え隠れする。ヴォルー坑の生命を絶った作中随一の破壊の体現者。 |
|
|