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第7巻 居酒屋
L'Assommoir, 1877

居酒屋 ゾラの最初の成功作であり、前期ルーゴン・マッカール中の傑作。パリの洗濯女ジェルヴェーズのささやかな夢とその破綻をあからさまに描き出すことを通じて都市の下層階級の悲惨な実態に光を当てた、典型的な自然主義小説である。ジェルヴェーズの生涯の眼を覆わせんばかりの無残さは、ブルジョワ階級からだけでなく労働者たちからも猛反発を受けた。また、クロード、エチエンヌ、ナナというマッカール家第4世代の子どもたちの人生の前編をなす物語でもあり、マッカール家の歴史の要石として、双書中でも不動の地位を占める。
(画像はfolio版の表紙より)→拡大画像(新ウィンドウが開きます)

基礎情報
長さ:428pp(双書中4位)
舞台:1850年5月〜1869年、パリ(グート・ドル街)
主人公:ジェルヴェーズ・マッカール(洗濯女、22歳-41歳)
資料と分析
章立てと展開
登場人物総覧
抜粋集

あらすじ

 愛人のランチエと、その間に生まれた二人の息子クロード(8)、エチエンヌ(6)とともに、故郷プラッサンからパリへ出てきたジェルヴェーズ(22)は、お針子のアデールにランチエを奪われ、生活に困窮する。それでもくじけず、彼女は洗濯女をしながら懸命に生きてゆく。そんなジェルヴェーズに好意を寄せるブリキ職人のクーポーは、たび重なる求婚の末、姉たちの反対を押し切ってジェルヴェーズと結婚する。その後数年間、クーポーとの結婚生活は順調にはこび、ジェルヴェーズは娘アンナ(愛称ナナ)をもうける。夫婦には貯金もでき、ジェルヴェーズは雇いの洗濯女をやめて洗濯屋を開業することを考え始める。
 この時、クーポーが不慮の事故で脚を大怪我してしまう。しばらくの入院ののちクーポーの怪我は治るが、この間にクーポーには怠け癖がついていた。いちじ独立は危ぶまれたが、ジェルヴェーズは真面目な労働者のグージェ親子から大金を借りて、周囲の懸念と嫉妬をよそに、洗濯屋を開業する。当初は好調であった洗濯屋の営業は、しかし、ジェルヴェーズの誕生祝いのパーティーの日を境にして、転落を始める。クーポーは店の売り上げのほとんどを飲みつぶしてしまい、また、ひょっこりと戻ってきたランチエが店に居候することになる。そしてある日ジェルヴェーズはランチエの誘惑に屈し、その寝室へと連れ込まれる。その姿を、娘のナナは好奇心で眼をギラギラさせながら覗き見ていた。
 クーポーとランチエの怠惰、ジェルヴェーズの堕落はとどまるところを知らず、ついにジェルヴェーズの洗濯屋は破綻し、手放さなければならなくなる。一介の雇い女に戻ったジェルヴェーズは、クーポーともども、不良娘に成長したアンナに当たり、毎日のようにひっぱたく。ナナはやがて家出し、街で娼婦の暮らしを始める。働く意志を失い、貧窮の底にあえぐジェルヴェーズは、ある日、クーポーにそそのかされて、売春して稼ぐ決心を固める。だが、冬の街へ出ていったジェルヴェーズが行き当たったのは、ジェルヴェーズに想いを寄せていたグージェだった。
 生きる気力を失ったジェルヴェーズはひたすら死を待ち望む。クーポーはアルコール中毒の発作で全身が痙攣して死ぬ。その数か月後、アパートの屋根裏部屋でジェルヴェーズが誰にも知られずに死んでいるのが発見される……。

主な登場人物

ジェルヴェーズ・マッカール
 本作の主人公。性格は特に個性的なわけではなく、ごく典型的な庶民の女である。こういう普通の女が必然的に破滅していく様子を描いているから『居酒屋』はおそるべき作品なのである。ヴィルジニーとの喧嘩に勝った場面はものすごく格好よかったのだけれど、零落してからの惨めさは見るにしのびない。
オーギュスト・ランチエ
 ジェルヴェーズの破滅の直接の原因はこいつである。自分は働かずに女の稼ぎを食いつぶし、破滅が近くなると他の女に乗りかえるという貧民街の渡り鳥。アデライードの血は引いていないはずであるが、ある意味「マッカール的なもの」の見事な体現者である。
クーポー
 ジェルヴェーズの夫。怪我で療養中に怠惰の味を覚え、ジェルヴェーズの生活を破壊する加害者と化す。しかしもともと真面目な労働者だったことを思えば、この人もパリに破滅させられた被害者なのかもしれない。しかしランチエが直接暴力を振るわないのに対してクーポーは妻子をびしびし殴るので、印象は悪い。ジェルヴェーズと同じく、死に方はきわめて悲惨。
アンナ・クーポー(通称ナナ)
 クーポーとの間にできたジェルヴェーズの末娘。14歳そこそこで家出して娼婦になってしまう。しかし、酔っぱらった父母から理由もなくびしびし殴られ、お気に入りのリボンを取り上げられて質に入れられたり、母の愛人ランチエから性の知識を吹き込まれたりしていれば、家出しないほうが不思議というものであろう。彼女のその後の生活と悲惨な末期は第9巻『ナナ』に詳しい。
グージェ
 母と二人で暮らす真面目な鍛冶工。新聞の切り抜きを部屋の中に貼り付けるのが趣味。ユーラリーとならび、この大作のなかでただ二人(!)の有徳な人物のひとりで、ジェルヴェーズに想いを寄せている。気の毒な人物である。
ルラ夫人
 クーポーの上の姉、造花細工の女工。自分にしか分からない意味不明の卑猥な冗談を言って、ひとりで満足している。ナナの伯母として第9巻『ナナ』にも登場。オールドミスを戯画化したような人物だが、ナナのことは本心から気づかっており、そう悪い人間ではないと思われる。
ロリユ夫人
 クーポーの下の姉で、金細工職人ロリユの妻。仕事場に入った人間が、靴の裏に金粉をつけて持ちだすことを警戒してばかりいるけちけち屋。ジェルヴェーズに敵意を抱き、クーポーとの結婚後も打ち解けようとしない。そのくせ祝い行事に呼ばないと後でぐちぐち嫌味を言う、下町封建主義おばさん。
ユーラリー・ビジャール
 飲んだくれビジャール親爺の長女。文句なしで、この作品中もっとも可哀想な人物である。親父に殴り殺された母親の代わりをつとめて家事を切り盛りし、これまた母親の代わりに親父に殴られる。いつも体じゅう傷だらけで、最後に衰弱死してしまうときには、着るものさえろくにない。それでも死ぬ直前まで夕食の支度を心配している。

翻訳文献

本作の訳書は多く、戦前のものを除いてはいずれも十分に読むに堪える。また集英社ギャラリー版に収録の、朝比奈弘治氏による解説は双書全般を紹介して非常に詳細かつ有用であり、この解説だけでも独立して読む価値がある。なお、田辺・河内訳の文献が複数あるが、漢字や仮名づかいに多少の異同があるのみで、基本的に同じ訳文である。

 書名訳者発行所発行日訳文備考
 「ルーゴン=マッカール叢書」セレクション4 居酒屋木村幹本の友社1999/06/10C訳者序
大正12年新潮社版の復刻
推薦集英社ギャラリー[世界の文学]7 フランス2清水徹集英社1990/04/25A人物、地図、詳細な解説
推薦筑摩世界文學大系46 ゾラ田辺貞之助・河内清筑摩書房1974/03/25A『獣人』を併録
 居酒屋古賀照一新潮文庫1970/12/30Aあとがき
 世界文学大系41 ゾラ田辺貞之助・河内清筑摩書房1959/02/20A『生きるよろこび』、『実験小説論』を併録
 居酒屋(上・下)田辺貞之助・河内清岩波文庫(上)1955/01/25
(下)1955/03/05
B上下巻にそれぞれあとがき
訳文:A=現代的かつ平易・B=やや古いまたは生硬・C=非常に古い

関連事項

DATA:『居酒屋』
書評:『居酒屋』

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