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第14巻 制作
L'Œuvre, 1886

制作 ジェルヴェーズ・マッカールの長男、画家のクロード・ランチエを主人公とする芸術界小説。近代絵画の世界に新しい潮流を打ちたてようとする外光派(印象派がモデル)の首領格クロードの、不世出の大作を志す執念とその挫折のドラマを前景として、当時の画壇の実態や革新的芸術家たちの肖像を浮き彫りにしようとする。マネ、セザンヌなど友人の画家たちをモデルにしたとみられ、刊行当時これらの友人の顰蹙をかった。作中人物である作家のサンドーズの思想にゾラ自身の文学観を代弁させるいっぽう、創作者としての苦悩を主人公クロードにも投影しており、自伝的要素の強い作品と言える。サンドーズとクロードが青春時代を語り合う物語前半の明るい雰囲気など、双書中ではやや異色の作品と見られるが、理想の女を絵の中に求めてついに自殺するクロードは、まぎれもなくマッカール家の血を受けた子でもある。
(画像はfolio版の表紙より)→拡大画像(新ウィンドウが開きます)

基礎情報
長さ:358pp(双書中10位)
舞台:1864年7月〜1878年11月、パリ
主人公:クロード・ランチエ(画家)
資料と分析
章立てと展開
登場人物総覧
抜粋集
旧訳自主規制箇所

あらすじ

 芸術革新の野望に燃える青年画家クロードは、パリのアトリエで貧しい暮らしを続けながら、創作の苦悩に向き合い、格闘の日々を送っていた。故郷プラッサン時代からの親友で文学を志すサンドーズと建築家を目指すデュビューシュ、またパリで知り合った芸術家仲間たちとの交流を続けながら、クロードは自分たちの芸術家としての成功を間近なものと信じていた。
 ある雷雨の夜、クロードは自分のアパートの前で行き倒れていた田舎の少女クリスティーヌと出会う。クリスティーヌを部屋に泊めたクロードは、その無垢な寝姿に理想のモデルを見出し、大作『外光』の中にその美しさを描き出そうとする。クロードはその後クリスティーヌと親密さを深めながら、ためらう彼女を説き伏せ、ある日ついにクリスティーヌをモデルにして『外光』を完成させる。
 サロン落選展に出品された『外光』は、その前衛性のために理解されず、ひどい嘲笑的な評価を浴びる。クリスティーヌは失望するクロードを励まし、二人はパリを逃れて静かなベンヌクール村に移る。牧歌的な生活のなかで子どもが生まれ、クロードは初めて家庭の幸福を味わった。しかし芸術の理想を捨てきれないクロードは、4年の田園生活ののち再びパリへ戻る。
 クロードは再び絵画の創作に取り組むが、作品は依然として認められず、彼はしだいに自己の才能への猜疑心にかられる。いっぽう、かつての仲間たちもそれぞれの道をすすみ、成功して疎遠になる者、落ちぶれて引きこもる者など、往時の情熱的な連帯感は失われようとしていた。そんな中で、変わらずクロードの親友であり良き仲間であったのは、文壇でようやく地位を築き始めたサンドーズだけであった。
 息子ジャックを失い、画壇でも無視され続けるクロードは、一切に幻滅して自殺願望を抱く。未完の大作の中の女に生命を削り取られていくかのようなクロードの様子を見たクリスティーヌは芸術をののしり、情熱と快楽の中にクロードを引き戻す。だが、束の間の至福もむなしく、翌朝、クロードは絵の女の前で首を吊っていた。

主な登場人物

クロード・ランチエ
 本作の主人公。明らかにセザンヌをモデルにしたとみられる青年画家。物語前半までは第3巻『パリの胃袋』で見せた陽気な側面を保っているが、後半に入ると鬼気迫る芸術家となる。「不完全な天才」と評され、才能はありながらも大成することができない。
クリスティーヌ
 クロードの恋人、のち妻。パリへ出てきた一途な田舎少女で、クロードに対して純真な愛を注ぐ。頭より手足を使う仕事のほうが好き。ベンヌクール村にいるときは本当に幸せだったのに……。クロードの死後、健気に立ち直ったものと信じたい。
サンドーズ
 クロードの親友の文学青年で、のち成功して作家となる。生理学に基礎を置いた人間分析の文学を築きあげることを目指し、木曜日に友人たちを自宅に集めて食事会を開く。明らかにゾラ自身がモデルである。クロードを見守り、その先駆的価値を作中で擁護する役割を果たす。
デュビューシュ
 建築学校に通う学生。プラッサン出身で、クロード、サンドーズと三人組の親友だったとされているので、セザンヌ、ゾラの親友であった数学者バイユがモデルか。一時期、クロードらと疎遠になってしまい、友情のはかなさを感じさせて少し悲しい。
アンリエット
 サンドーズの妻。ということは一応ゾラの妻アレクサンドリーヌに重なるわけである。サンドーズとの間に子どもがいない点も一致する。作中では出番こそ少ないが、夫のよき助言者であり、ほとんど非の打ちどころのない妻として描かれている。
ジョリー
 クロードの仲間のひとり。美術批評家。放蕩者で、一時期イルマと愛人関係になるが、その後どういうわけか薬草屋のおかみマチルドに手なづけられて結婚する。時流に乗って、どの流派に対しても調子のいい記事を書いている。
ファジュロール
 クロードの仲間の画家。画商ユーに才能を評価されて大成功をおさめ、かつての仲間たちと疎遠になる。しかしユーの商売は投機的な価格吊り上げ工作にすぎず、その評価には実体がともなっていないので、やがて破滅することは運命的である。
マウドー
 クロードの仲間の彫刻家。マチルドをモデルに『ぶどう摘み女』、『水浴する女』などを制作。彫像の中に入れる鉄の支柱が買えなかったので、ほうきの柄で代用したところ、これがたたって完成間近に倒壊してしまう。これが物語後半の暗い雰囲気へ転回していく象徴的な事件である。
イルマ・ベコー
 脇役の中ではピカイチの個性を放っている、パリの若い娼婦。陽気で、気まぐれで、謎めいた振る舞いを見せる。クロードに気があるようでもあり、クリスティーヌから一方的に嫉妬される。本作に登場する女性のなかでは最も魅力的な人物かもしれない。
ボングラン
 クロードらよりも一世代上の大画家。学士院のメンバーとなるが、自分の流行が去りつつあることを感じている。芸術家人生の非情な一面を体現し、サンドーズとともにクロードの埋葬に立ち会う。この人物の中にも、作家ゾラの感慨を見て取ることができよう。

翻訳文献

本作には清水正和氏による最新の翻訳がある。解説は詳細、入手も容易であり、これを利用すれば問題ない。

 書名訳者発行所発行日訳文備考
 「ルーゴン=マッカール叢書」セレクション9 制作井上勇本の友社2000/07/10C訳者序
大正12年聚英閣版の復刻
推薦制作(上・下)清水正和岩波文庫1999/09/16A下巻に詳細な解説
訳文:A=現代的かつ平易・B=やや古いまたは生硬・C=非常に古い

関連事項

DATA:『制作』

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