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本作の主人公。ジェルヴェーズの次男で、彼女がランチエと駆け落ちするときプラッサンに残してきた子とされている。パリ=ル・アーヴル間を結ぶ機関車ラ・リゾンの機関士。丸顔、ひげ面の温厚な青年だが、女に欲望をいだくと突然理由もなく逆上して、相手を殺すための道具を探そうとする。マッカール家でも最も危険な男といえよう。
ルーボーの妻、のちにジャックの愛人。25歳だが、青い眼と黒い髪の、少女のような女である。グランモランは彼女に魅せられて強姦し、ルーボーはそれを知って殺人を犯し、ジャックは彼女の裸を見て発作を起こす。自身はそうと意図しないまま、周囲に嫉妬と犯罪とを呼び寄せるという、無邪気で危険な人物。
ル・アーヴル駅助役。堅実な職員であったが、熱愛する妻の残酷な過去を知って嫉妬に狂い、恩人グランモランを突発的に殺害。血の気が多いだけで、基本的には単純な性格である。グランモラン殺害後、酒と博打にひたって堕落していく姿はゾラの描くお馴染みの男であるが、それでも仕事を最低限こなしているところにもとの面影をとどめる。
ルーアン裁判所長、西武鉄道会社取締役、大富豪、レジオン・ドヌール勲章コマンドゥール位受章者、そして悪逆好色ジジイ。貧しい踏切番の娘ルイゼットを小間使いに雇うが、犯して死なせた。雇っていた庭師の末娘セヴリーヌを養女としてひきとるが、16歳のとき犯して、その後も夫に秘密で囲っていた。
クロワ・ド・モーフラの踏切番。森の中をぶらつくのが好きな金髪の娘で、坂を下りてくる貨車をぴたりと止めたという怪力の伝説をもつ。ジャックに恋心を抱き、愛人になったジャックとセヴリーヌを恨んでラ・リゾンに衝突事故を起こさせるが、二人の殺害には失敗。その直後の自殺のしかた(列車に正面からぶつかる)は、めちゃくちゃかっこいい。
クロワ・ド・モーフラの電信係ミザールの妻、フロールとルイゼットの母。ランチエの従妹で、ジャックの名付け親。自分が受け取った1000フランの遺産を夫に奪われるのではないかという心配から、夫が自分を毒殺しようとしていると訴える。誰にも信じてもらえなかったが、実はミザールは彼女の浣腸剤の中に鼠取りを混ぜていた。
フロールの妹。ボンヌオン夫人に引き取られ、のちにグランモランの小間使いとなる。昨年の秋、打ち傷をつけて友人のカビュッシュのもとへ逃れてきて、その後発熱により死亡。グランモランに暴行されたためというのが真相のようである。
クロワ・ド・モーフラの近くのベクールの森で暮らす森番。ルイゼットと親友で、彼女の死に憤りグランモランに恨みを抱いく。一途で単純な人物だが、殺人により服役した経歴がある。のちにセヴリーヌに魅了され、彼女につきまとったのが災いして濡れぎぬを着せられることになる。
酒癖が悪く、嫉妬深い、ラ・リゾンの火夫、ジャックの相棒。妻のほかに、列車の終点にそれぞれ一人ずつの愛人がいるが、その一人フィロメーヌをめぐって、ある日疾走中の機関車でジャックと格闘になり、ともに転落死。死体は二つとも首がとんでいたという。
ルーアン裁判所予審判事。野心にあふれ、グランモラン事件の捜査によって名声を得ようと躍起になる。捜査力、推理力、構想力は抜群で、グランモラン事件のみならずルーボー事件でも見事な論理を展開する。唯一の難点は、その推理が間違っていることである。
司法省事務総長、グランモランの友人。パリ政界の重要人物。彼はグランモラン事件の真相に感づいており、ルーボー夫妻の犯行を確信しているが、保守派の利益のためもみ消しに奔走する。だが彼は、同時に帝政の崩壊をも予感しているのだが……。
グランモランの妹、ルーアン社交界の花形。財産にこだわらないさばけた一面はあるものの、それは、財産よりも名誉により執着しているからにすぎない。グランモラン事件に際しては、カビュッシュを犯人にまつりあげるために、彼とルイゼットを中傷しまくる。
【破滅へと向かう、押しとどめることのできない流れ】 巻数からいっても、内容からいっても、『獣人』の続編的位置にあるのが第19巻『壊滅』である。『獣人』の最後で暴走列車に運ばれてゆくのは、やがてパリを焼き尽くすことになる戦いへと赴く兵士たちだった。殺人から戦争へ、双書が描き出してきた暴力と破壊はいよいよクライマックスを迎える。『獣人』読了後のテンションを維持したまま、18巻をとばして『壊滅』にとりかかるのは、かなりオススメの読み方である。
【マッカール家の物語はみな『壊滅』をめざす】 これまでの巻には、『獣人』と同じように普仏戦争の直前をもって物語を閉じる作品は多い。そのなかでも注目に値するのが第15巻『大地』と第9巻『ナナ』であろう。『大地』は『壊滅』の主人公となるジャンが従軍を決意して農村を去るところで終わっており、『ナナ』では開戦に熱狂するパリの群衆の姿が描かれる。特に『ナナ』と『獣人』の結末の場面は、その迫力において好一対をなしている。なお、ジャックはジェルヴェーズの息子であるが、『獣人』のためにゾラが後から設定を追加したものらしく、この巻以前にはまったく登場しない。従って『居酒屋』との関連はそれほど気にする必要はない。
【生命感にあふれる機械】 ゾラの作品の一方の極として、非生物をまるで生命をもつかのように躍動的に描くという傾向がある。その典型ともいえるのが、第13巻『ジェルミナール』の炭鉱機械と『獣人』の機関車だろう。善でも悪でもなくただ盲目的に活動する圧倒的な巨大機械のもとで人間の生活が営まれるという、高度産業社会に特有の雰囲気をこの両作品ほど見事に描き出した作品は、フランス文学史上でも例が少ないのではないだろうか。
本作の訳書は意外と多い。河内・倉智訳が最もよい。
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