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第5巻 ムーレ神父の罪
La Faute de l'abbe Mouret, 1875

ムーレ神父の罪 双書中に4冊ある「休息と気晴らし」の作品のひとつ。敬虔で誠実な神父セルジュ・ムーレが、内に目覚めた肉体的な愛と聖母信仰との葛藤に苦悩する姿を追跡する。パラドゥの楽園の汎神的な風景、少女アルビーヌの悲劇的な最期など、描写の美しさは双書中でも比類がない。生と死、愛と信仰との相克を際立たせ、ゾラの抱き続けた思想の底流をかいま見せる。
(画像はfolio版の表紙より)→拡大画像(新ウィンドウが開きます)

基礎情報
長さ:283pp(双書中19位)
舞台:1867年5月〜同年秋、リザルトゥ、パラドゥ
主人公:セルジュ・ムーレ(神父、26歳)
資料と分析
章立てと展開
登場人物総覧
抜粋集

あらすじ

 プラッサン近郊の小村レザルトウで神父の任についているセルジュ・ムーレ(26)は、聖母への信仰を胸に抱きながら、敬虔な毎日を、知恵遅れの妹デジレ(22)とともに送っていた。村の娘ロザリーの妊娠と結婚問題、パスカル叔父との交流、無神論者ジョンバルナーとその姪アルビーヌ(16)との接触といったささやかな事件を経ながら、平穏な毎日が過ぎていった。
 ある日、あまりに熱心に祈りを捧げていたセルジュは熱病に倒れ、記憶を失ってしまう。パスカル叔父のはからいで隣村パラドウに移されたセルジュは、野性的な少女アルビーヌのもとで介抱を受ける。エデンの園を思わせる原始的なパラドウの庭園での共同生活を送るうち、やがて二人の間には自然で素朴な愛情が芽生える。
 アルビーヌはセルジュに、パラドウの庭園の中で最も美しいという「秘密の木陰」を探そうともちかける。セルジュは怖れを抱くが、ある日アルビーヌはついにその木陰を発見する。その木陰を訪れた二人は、パラドウの周囲を囲む石垣をも発見してしまう。このとき、セルジュに神父としての記憶が戻り、パラドウでの歓楽的な生活に罪の意識を覚えたセルジュはアルビーヌを捨ててレザルトウへ戻る。
 罪の意識に苛まれるセルジュは以前よりもいっそう禁欲的な生活に戻り、アルビーヌが病気になったとの知らせやパスカル叔父の説得にも応じない。アルビーヌはみずから教会堂を訪れてセルジュの心を取り戻そうと懇願する。セルジュはアルビーヌを愛することができると信じて再びパラドウに戻るが、自然で素朴な愛情はもう彼の心には戻ってこなかった。絶望したアルビーヌは、庭園中から集めた花の中に横たわり、自ら窒息死する。アルビーヌはセルジュの子を妊娠していた……。

主な登場人物

セルジュ・ムーレ [Serge Mouret]
 本作の主人公の敬虔な神父。そもそもこの人が記憶を失ったりしたのが、本作の悲劇の元凶だったのである。自分が妊娠させた少女が、帰ってきてくれと泣いて頼んでいるのに、聖母様がどうとかわけのわからぬことを言って捨ててしまう。パスカル博士でなくとも、ばかもの、と怒鳴りたくなるところであろう。
アルビーヌ [Albine]
 広大な庭をもつさびれた屋敷パラドゥに、祖父と共に暮らす奔放な少女。正規の教育も受けず、森の中を駆け回っている野性的な娘で、セルジュとの間に愛をおぼえてからは一挙に女性として開花する。しかしその後裏切られ、自殺同然の最期を遂げる。本作の「薄倖の人」ナンバーワン。
デジレ・ムーレ [Désirée Mouret]
 セルジュの妹。両親からの遺伝により生まれながらの知恵遅れになってしまった、動物好きの美しい娘。彼女の存在もまたルーゴン・マッカール家の病んだ血の結果ではあるが、しかしゾラはデジレのことは決して貶めてはいない。デジレは純粋な魂の持ち主であり、無神論者の娘として獣のように蔑まれていたアルビーヌに対して、最初から偏見を持つことなく接したのは彼女とパスカル博士だけなのである。
パスカル・ルーゴン [Pascal Rougon]
 私の好きなパスカル先生である。その誠実な人柄は本書でも存分に発揮されている。特に本作では、怒るべきときにはきちんと怒る、という一面を見せており、私はますます魅せられてしまった。
ジョンバルナー [Jeanbernat]
 アルビーヌの祖父の無神論者。大胆不敵なじいさんであるが、最も痛快なのは最後の場面でのふるまいであろう。ジョンバルナーは嫌味な信心家のアルシャンジエといがみ合っていて、「いつかお前の耳を切り落としてやるぞ」などと悪態をついていたりしたのだが、これはただの脅しではなかった。アルビーヌの葬儀に参列していたアルシャンジエの背後に音もなく忍びより、いきなりナイフで耳を切り取ってしまうのである。恐るべき特技である。
 
 

翻訳文献

本作には抄訳が一件あるのみである。

 書名訳者発行所発行日訳文備考
 「ルーゴン=マッカール叢書」セレクション3 アベ・ムウレの罪松本泰本の友社1999/06/10Cはしがき
昭和5年改造社版の復刻
訳文:A=現代的かつ平易・B=やや古いまたは生硬・C=非常に古い

関連事項

DATA:『ムーレ神父の罪』
書評:『ムーレ神父の罪』

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