Rue de Choiseul 第10巻『ごった煮』で物語の中心となるジョスラン一家は、このショワズール街のアパルトマン(ヴァブル館)に住んでいることになっている。婚期を迎えた娘ベルトにいい夫を見つけてやるためジョスラン夫人は見栄を張って虚飾の限りを尽くすが、乏しい財政の埋め合わせをするために馬車代を節約して、雨の日でも歩いてこの街まで帰ってくる。
Gare Saint-Lazare ノルマンディー方面への玄関口であるこの駅から、ルーアンやル・アーヴルへの列車が出発する。第17巻『獣人』は、郊外線が頻繁に発着するサン・ラザール駅をユーロップ広場から眺望する描写で幕をあけた。ルーボー夫妻がグランモランを殺害した列車が出発した駅であり、のちにはジャックの運転する機関車ラ・リゾンがセヴリーヌを乗せて入ってくる駅である。
Mur des Fédérés 第二帝政の終焉を描いた第19巻『壊滅』の第三部は、パリ・コミューンの成立と崩壊を背景とし、コミューンに参加していた親友モーリスをジャンがそうと知らずに刺し殺してしまうという悲劇的な結末におわる。作中のモーリスの死の前日(1871年5月27日)、ペール・ラシェーズ墓地でコミューン兵士の大虐殺が起こり、ここにコミューンの命運は尽きた。ペール・ラシェーズに残るコミューン兵士の墓には今も花束が絶えない。