千一夜物語 | 物語 | 船乗りシンドバードの第三話 | 親 | 前 | 次 |
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あらすじ
巨額の富を築いたシンドバードはしばらくするうちにまた贅沢な暮らしに飽き、冒険を求めて船出した。しかし船は逆風に運ばれて不吉な島に流れ着き、シンドバードたちはその島に住む不気味な毛むくじゃらの獣たちに船を奪い去られてしまう。島に置き去りにされたシンドバードたちは大きな御殿を見つけて中にはいるが、そこは人喰い巨人の住処だった。船長をはじめ、仲間たちは一夜に一人ずつ喰われていく。シンドバードたちは焼串で巨人に反撃し、わずか三人になって筏で島を脱出する。しかし新たにたどりついた島には大蛇が棲んでおり、シンドバードの仲間は二人とも丸呑みにされてしまう。シンドバードは自分の体に板をくくりつけて呑まれるのを免れる。翌朝、島の付近を通りかかった船にすくい上げられたところ、その船長は前回の航海の際にはぐれた船長であったことがわかり、シンドバードは財産を取り戻して無事バグダードに帰り着く。 解説
【懲りない男】 第二の航海までのあらすじをまとめておくと、「シンドバードは第一の航海で大変な苦労をしてようやくバグダードに帰還したのに、喉元過ぎて熱さを忘れたので第二の航海に出て、またそこでいろいろあって再び死ぬ思いをして戻ってきた」。さて、これだけ痛い目に遭ったのであるから、彼が三度目の航海に出ていったとすれば、それはよくよくの理由があってのことなのであろう。シンドバードはその理由を次のように説明する。 第二の航海より戻って以来、富裕と歓びのただなかに、快い生活を送っているうちに、私は遂には、遭遇した苦難と冒した危難の記憶をば、ことごとく打ち忘れ、バグダードの生活の単調な無為のうちに、退屈してしまったのでありました。(v4p455) またですか。 退屈したからって……。あんた、最初の航海の時からなにも進歩していないじゃないか。 【筏を作って巨人を待つ】 流れ着いた島で巨人の住処に迷い込んで、一晩に一人ずつ喰われていってしまうシンドバードたちは、筏を作って島を脱出することを考える。しかし、ここらへんの行動様式がさっぱり意味不明である。 すぐにわれわれは浜に出かけて、みんなで件の筏を組み、その上に、食べられる草などいくらか積みこむ手配をした。それから一同、館にもどって、顫えながら黒ん坊の来るのを待った。(v4p463-464) 筏を作ったんなら、なんでさっさと逃げないのであろうか。逃げる前に勇敢にも巨人を退治してやろうと考えた、というならまだわかる。だが、彼らは巨人の住処に戻って顫えながら待っているわけである。そんなに怖いなら、巨人を倒さなくてもいいから早く逃げろよ、と言いたい。 【船長】 この第三の航海においてシンドバードの帰還のきっかけとなるのは、大蛇の島の近くを通りかかった船に助けられたことである。その船の船長が実は第二の航海のときにはぐれた船長だったことがわかり感動の再会を果たす……という感じで話が進むのだが、よく読んでみるとそう単純ではない。 第二の航海で離ればなれになってしまいシンドバードが死んだと思いこんだ船長は、今助けたのがシンドバードその人だとは最初気づかず、シンドバードのことを次のように説明する。読者は「第二の航海」のあらすじをもう一度見直しながら船長の言葉をよく聞いてもらいたい。 「されば、今から数年前、われわれといっしょにひとりの旅客が乗り合わせていたが、その仁は、船の寄港したある島で、行方不明になってしまった。(……)」(v4p470) 違うだろうが。おまえが忘れて置き去りにしてきちゃったんだろ。再会の喜びに便乗して、微妙に責任のがれをするんじゃない。 |
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