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千一夜物語 物語
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船乗りシンドバードの物語の第一話
 そしてこれは第一の航海である

基礎データ
夜々 292夜〜第294
ページ vol. 4, pp420-437
枠レベル 2
話者 船乗りシンドバード
えっち度 (なし)
船乗りシンドバードの物語
船乗りシンドバードの物語
船乗りシンドバードの物語の第二話
枠構造
千一夜物語(最外枠)
船乗りシンドバードの物語
船乗りシンドバードの物語の第一話
船乗りシンドバードの物語の第二話
船乗りシンドバードの物語の第三話
船乗りシンドバードの物語の第四話
船乗りシンドバードの物語のうち第五話
船乗りシンドバードの物語のうち第六話
船乗りシンドバードの物語のうち第七話

あらすじ

 教王ハールーン・アル・ラシードの時代、父が残した遺産で放蕩生活を送っていたバグダードの商人シンドバードは世界を見て回ることを思い立ち、買い込んだ商品を積んで航海に出る。だが、あるとき小さな島に上陸したところそれは巨大な鯨であり、逃げ遅れたシンドバードはひとり漂流して別の島にたどりついた。そこはミフラジャーン王の所領で、臣下の男たちが、財産となる高価な海馬の仔馬を巧妙なやり方で生産しているところであった。シンドバードは彼らの好意を得てミフラジャーン王に接見し、その宮廷で港湾長官の職につく。ある日バグダードへ帰る船長とたまたま会うと、それこそが、シンドバードの荷物を積んだ最初の船の船長であったことがわかる。シンドバードはミフラジャーン王から豪華な贈り物を受け、巨財とともにバグダードに帰還した。

解説

【逃げる船長】

 本編はシンドバードの七つの航海の冒頭を飾る記念すべき物語であり、島だと思ったら巨大な鯨の背中だったという、みんな一度は幼心に聞いたことはあるけど誰も正確な出典なんか気にしない話も、実はここに出てくるわけである。しかし本編においてとりわけ注目に値するのは、シンドバードの乗り込んだ船の船長という人物の存在であろう。彼は船の乗客が島に上陸しているときも船に残っていたため、島が鯨の背中であることに真っ先に気づくのであるが、それを知るやいなや、

「(……)あんたがたは鯨の眠りを覚ましてしまった。背中で火なんぞ起したので、安静を妨げ気持を乱したのだ。そら、動き出した。逃げろ。さもないと鯨は海に潜って、あんたがたは海に呑まれて、二度と出てこられないぞ。逃げろ。みんな捨ててしまえ。おいらは行ってしまいますぞ。」(v4p424)

と叫んで、さっさと逃げ出してしまう。

 船長だというのに乗客の安全に対するこの無責任さというのは、偉大なるアラブの精神を分け持たない私たちにはちょっと驚異的なのであるが、しかしそこまではまだよい。よく考えてみれば大事な船が危険にさらされているのに逃げ遅れた客を待っていることもないだろうからである。
 だがこの船長の場合、逃げ足の早さが尋常ではない。船には戻れなかったがまだ水に浮いていて救助を待っている乗客もいるというのに、そんなものはお構いなしなのだ。

船長はというと、やつは全部の帆に風を孕ませて、まだ浮いている人々なぞにはもうかまわずに、助かることのできた者といっしょに、さっさと遠ざかってしまった。(v4p425)

 逃げ切れなかった者に対するこの見切りの早さは何なのであろうか。置いていかれた者にとってはもはや身の破滅しかないという状況なのであるが、この船長の逃げ姿のおかげで、なんというか、物語にまるで悲壮感がなくなってしまうのである。こうしてこの船長は、シンドバードを置いて遁走するその後ろ姿によって、シンドバードの七度の冒険の幕開けを象徴しているのだと言えよう。

ワンポイント・メモ

挿話 鯨の島 島だと思って上陸したら実は巨大な鯨の背中だった。(v4p423)
格言 他の三つのことよりも好ましき三つのことあり。すなわち、死の日は誕生の日よりも遺憾ならず、生きたる犬は死せる獅子にまさり、墓は貧困より好まし。(v4p421)
挿話 海馬の仔馬 海岸につないだ牝馬で海馬を誘い出し、つがわせて仔馬を産ませる。(v4p427)
知識 インドのカースト制度 (v4p432)
表現 男女の交わり 終えるべきことを終える。(v4p430)

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