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ゾラ・セレクション刊行

日本で初の本格的なゾラ著作集が、2002年11月より藤原書店から刊行されます。藤原書店ウェブサイトの情報をもとに、各巻への期待をまとめました。

プレ企画 いま、なぜゾラか
宮下志朗+小倉孝誠 編
 
2002年10月刊
詳細
第1巻 初期作品集
宮下志朗 訳・解説
 
 
第2巻 パリの胃袋
朝比奈弘治 訳・解説
 パリ中央市場の活気ある日々を描き出した双書第3巻。市場に出入りする人々の猥雑な生命力が活写され、双書初期の作品のなかでもゾラらしさが顕著な白眉の作。他の作家・評論家からも言及され注目に値する小説であったが、長らく大正時代の翻訳しかなかった。『制作』のクロードの若き日の姿や『生きる喜び』のポーリーヌの幼少時代、またお転婆キャディーヌや悪がきキュシュといった魅力ある人物も多く、楽しい作品である。この時期の新訳はまことに喜ばしい。
2003年3月刊
詳細
講読ノート
第3巻 ムーレ神父のあやまち
清水正和+倉智恒夫 訳・解説
 双書第5巻。ムーレ家系第4世代、セルジュ・ムーレ神父の悲恋を描く小品。野育ちの奔放な少女アルビーヌの、新訳での復活に期待が高まる。パスカル博士、デジレ・ムーレ、無神論者ジャンバルナーなど、これまた印象的な人物が多い。これまで抄訳しかなかった作品だけに、こんどの新訳は朗報である。
講読ノート
第4巻 愛の一ページ
石井啓子 訳・解説
 『ムーレ神父の罪』と並び双書の息抜き的傾向をもった第8巻。パリの遠景描写の美しさには定評がある、と聞き知ってはいたが、アサクラもいまだ読んでいない。訳書は存在するものの、図書館の所蔵も含めて利用機会がきわめて限られている「幻の一冊」であった。こんどのセレクションへの収載はその意味で大ヒットと言えよう。病弱なヒロイン、ジャンヌ・グランジャンに期待。
講読ノート
第5巻 ボヌール・デ・ダム百貨店
吉田典子 訳・解説
 双書第11巻。『居酒屋』や『ナナ』に匹敵する大作であり、資本主義下のデパートの発展を取り扱った興味深い小説であるにもかかわらず、日本での知名度は異様に低い。自然主義という固定観念でゾラを理解している人々に考えを変えさせるのに好適な作品であり、これが訳されていなかったことが日本におけるゾラ紹介の大きな不幸であった。現存する唯一の翻訳は、大正時代のものであることに加え訳文自体にも相当に問題があったので、今回の訳業をもって本邦初訳とみなしてもよいくらいである。理想的な少女ドゥニーズの魅力をどう訳しているか、おおいに楽しみである。
講読ノート
第6巻 獣人
寺田光徳 訳・解説
 盲目的な暴力性を双書中でもっとも激しく描き出した第17巻。雪原を疾走する機関車の迫力にひたすら圧倒される。ルーゴン・マッカール双書の極北ともいうべきこの作品に対しては、ゾラのファンでさえ好き嫌いが分かれるかもしれない。この作品には比較的読みやすい翻訳が現存し、アサクラはすでに堪能済みであるが、アサクラの好み的には『獣人』は『ジェルミナール』と並ぶゾラ小説の双璧であるので、何度訳されても差し支えない。期待のキャラは謎めいた美女セヴリーヌ。
講読ノート
第7巻 金
野村正人 訳・解説
 これまで、凡作で重要性が低いとしてあまり顧みられることのなかった第18巻。しかし、バブリーな取り引きにうかれる投資家たちがえげつなく跳梁する姿を描いた本作は、ある意味では、こんにち、文学専門外の読者にとっても非常に興味をそそるところかもしれない。ゾラのジャーナリスト的手腕が冴え、双書中でも相当に硬派な部類に属する作品。邦訳は大正10年以来だが、旧訳は金融関係の訳語に現代人の観点からは相当な難がある(「才取り」なんて言われたってわからんよ、ふつう)ため、事実上今回が初訳にひとしい。ゾラ小説には珍しい「魅力的な中年女性」カロリーヌが登場。
講読ノート
第8巻 文学評論集
佐藤正年 訳・解説
 
 
第9巻 美術評論集
三浦篤 訳・解説
 
 
第10巻 時代を読む 1870-1900
菅野賢治+小倉孝誠 編・構成
2002年11月刊
詳細
第11巻 書簡集
小倉孝誠 編・構成
 
 
別巻 ゾラ・ハンドブック
宮下志朗+小倉孝誠 編
 
 


双書の翻訳としての『ゾラ・セレクション』総評(08/29)
 というわけで、結局、今回のセレクションに含まれる翻訳はいずれもおおいに有意義である、というのがアサクラの結論です。ただ、双書全体の翻訳状況と比して今回のセレクションを位置づけるとすると、次のようになるでしょう。
 ルーゴン・マッカール双書の各巻は、翻訳状況を基準にして、現在、次のように分類することができるように思われます。

(1)平易で比較的入手容易な翻訳が存在しており、その気になれば誰でも読める。
 …7冊(居酒屋、ナナ、生きる喜び、ジェルミナール、制作、大地、獣人)
(2)翻訳がなくはないのだが、非常に古いかまたは非常に入手困難で、普通の読者は読めない(読む気にならない)。
 …9冊(ルーゴン家の繁栄、パリの胃袋、ムーレ神父の罪、愛の一ページ、ごった煮、ボヌール・デ・ダーム百貨店、夢、金銭、壊滅)
(3)翻訳が存在せず、原書で読むほかない。
 …4冊(獲物の奪い合い、プラッサンの征服、ウージェーヌ・ルーゴン閣下、パスカル博士)

 さて、上記のリストを見ればわかりますが、今回のラインナップは、(2)に属する作品の大部分を(1)へと移行させるという意義を担っていると言うことができるでしょう。いわば一般読者のゾラ作品に対する敷居を大きく下げるところに、今度のセレクション刊行の真価があると言えそうです。ゾラの普及を願うアサクラとしては、その選択に基本的に異存はありません。とはいえ、ゾラファンとして欲を言えば、やはりいくつかの無念が残ります。
 まず、完全に未訳の(3)に属する作品がひとつも含まれていないのは残念。パリを描いたものを中心にするという方針からすれば無理からぬところですが、とりわけ双書完結編『パスカル博士』と、河内清氏が高く評価していた『プラッサンの征服』の両作が、依然として未邦訳なのはなんとももどかしい限りです。
 『獲物の奪い合い』と『ウージェーヌ・ルーゴン閣下』については、あまり重要でない作品らしいので無念もそれほどではありませんが、重要でないからという理由でいつまでも訳されないのであれば、いったいいつになったら訳されるのでしょうか。没後100年のこの機会を逃してしまうと、あとはかなり期待薄になってしまうのですが……。
 また(2)についても、双書幕開けの『ルーゴン家の繁栄』、ロマンティックな小品『夢』、全巻中の最長編『壊滅』が落ちたのは、それ自体としてはやはり残念というしかありません。
 要するに、大正時代の訳にまで手を出している重症読者・アサクラとしては、やはり遺漏なし・例外なしの完全な「全集」でなければもはや満足できないところまで来てしまっているわけで、その意味で今度のセレクションのラインナップは「かなり嬉しいけど、ちょっと悲しい」ものとなっているのは避けられないのでありました。

セレクション刊行後の翻訳状況
 でも、少なくとも数の上では、今回のセレクションにより未訳の作品数もだいぶ減ることになります。セレクション完結後の双書の翻訳状況は、新しい訳のある作品と、まったく訳されていない作品との二極分裂状態になります。できれば、未訳の作品をピンポイントで誰かが訳してくれて、ともかくも全巻出揃うという状況になってほしいのですが……。せめて『パスカル博士』だけでもいいので、誰か訳してくれないかなあ……。


速報「ゾラ・セレクション」(06/10)
2002年5月発行の宮下志朗『パリ歴史探偵術』(講談社学術新書)の文献リスト(255ページ)に、次のような記載がありました。

・宮下志朗・小倉孝誠編『ゾラ・セレクション』全11巻、藤原書店
没後100周年を記念して、2002年末から刊行開始。パリを主題とした小説――ほとんどが未紹介――を中核にすえ、美術批評やジャーナリスチックな文章までも収めたシリーズ。

とうとうゾラの現代語訳選集が刊行されることになりそうです。しかも未紹介作品を多く含んだかなり本格的なゾラ選集のようなので、かなり期待できそうです。もし実際に刊行されれば、原書で読むほかないと半ば諦めていたいくつかの作品も、思ったよりも早くこのサイトで紹介できるかもしれません。(ただし6月10日現在、藤原書店のサイトでは『ゾラ・セレクション』の刊行情報は見当たらないようです。)

この報に接したアサクラは、ひとしきり勝利の踊りを踊ったのち、この刊行事業を一方的に応援することに即決しました。SYUGO.COMでは、今後当ページにおいて情報収集・広報活動をしつつ、刊行の前後にわたって勝手に盛り上がることにします。


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