盲目な生きんとする意志の存在を説いて実存主義の先駆をなす体系的哲学書。
"Die Welt als Wille und Vorstellung", 1818
『世界の名著45 ショーペンハウアー』(中公バックス、1980年)所収
【1】 日本では、その自殺論や女性蔑視によってばかり有名になってしまった感のあるショーペンハウアーであるが、本書を読めばわかるとおり、かれはプラトンとカントを独自のやり方で継承しようとした本格的な体系哲学者である。本書は、ショーペンハウアーが30歳の時に書かれたかれの主著であり、その視野は伝統的な認識論に始まって、数論、自然哲学、芸術論、道徳論、犯罪論、宗教論と多岐にわたる。特にかれは当時のヨーロッパ哲学者としては珍しくインド哲学や仏教にも関心を抱いており、東洋人にとっても興味深い叙述を残している。また、それ以上に、大筋から少しはずれたところでしばしば現れるかれの天才論、狂気論、精神分析論、自殺論などはそれ自体として格好の読み物である。近年、アダルトチルドレン問題に関連して人口に膾炙してきた「ヤマアラシのジレンマ」も、そもそもショーペンハウアーが紹介したのが有名になったきっかけとされている。 かれの哲学はまた厭世主義・神秘主義の哲学としてもよく知られている。とはいえその内実は、近年ありがちなひ弱な宿命論やオカルティズムとはまったく趣を異にするものである。合理と不合理の狭間で葛藤し、カント的な体系性とニーチェ的な非体系性とをともに備えたかれの哲学は、現代に生きる私たちの不安な姿を先取りしていたとも言える。 【2】 本書は、私が最も強く影響を受けた哲学書である。読みながら作った当時のノートによると、大学3年の夏に読み始めて、一日数ページずつ、のべ150日くらいかけて読んでいる。専門書を読みながら、残りページが少なくなっていくのを残念に感じたのはこの時が初めてではなかったろうか。 |
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