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(2002/05/29)
新しいページ:フランス文学データベース「中世文学史」
中世フランス文学史
カエサルのゴール征服に伴う俗ラテン語の登場と、ゲルマン民族の侵入によるゲルマン語の影響を受けて、フランス語の原型となるロマンス語が成立する。さらに北仏ロマンス方言であったオイル語が分化し、こうして、こんにちに至るフランス語の歴史が始まった。 中世封建社会の最盛期からその成熟と瓦解に至る、約四世紀間にわたって、フランス語による最初の文学表現が始まる。そこには、後世諸世紀におけるフランス文学の原点となる多様な精神が息づいているのである。 |
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資料 |
作品リスト |
キーワード |
ロマンス語 | トルバドール |
オイル語 | 奇蹟劇 |
オク語 | 聖史劇 |
武勲詩 | 笑劇 |
ゴーロワ精神 |
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フランス語の成立 |
中世とは世界史上、西ローマ帝国崩壊(476)からイタリア戦争の開始(1494)までをいうのが普通であるが、フランス文学史においては12世紀から15世紀を中世(Moyen Age)と呼ぶ。なぜなら、ガリア北部のロマンス語方言であったオイル語から古フランス語が成立したのが12世紀であり、1100年以前にはフランス語で書かれた文学作品がほとんどなかったからである。フランス語で書かれた最初の文献として、『ストラスブールの誓約書』(842)がある。 |
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前58 | カエサルのゴール征服 |
| 俗ラテン語(latin vulgaire)の成立 |
400 | ゲルマン民族の侵入、フランクの支配 |
| ゲルマン語の混入、発音や文法の変化、地域ごとの分化→ 5-10世紀に民衆が日常語として用いた俗ラテン語=ロマンス語(roman)
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980 | |
| ガリア南部のロマンス語方言群:オク語(langue d'oc) ガリア北部のロマンス語方言群:オイル語(langue d'oïl)=古フランス語 |
1350 | |
| 中代フランス語 |
1600 | |
| 近代フランス語 |
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古典ラテン語 | | | |
| 俗ラテン語 | | |
| | ↓ | ゲルマン語 |
| | ↓ | ↓ | |
| | ロマンス語 | |
| | ↓ | ↓ | |
| | オク語 | オイル語 | |
| | | 中代フランス語 | |
| | | 近代フランス語 | |
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俗ラテン語に対して、ローマ人が用いたラテン語を古典ラテン語(latin classique)という。日常語たるロマンス語で書かれた冒険物語という意味から、ロマン(roman=小説)という語が生まれた。 |
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中世前期(12・13世紀) |
中世前期の文学作品は、次のように分類される。(1)聖者伝…聖職者が信者たちを教化するために、ラテン語から古フランス語に書き直した韻文の物語。(2)叙事詩…十字軍遠征に伴う騎士道精神から生まれ、国家と宗教の権威を発揚することをめざした詩。特に武勲詩(Chansons de geste)が発展した。(3)宮廷風文学…カペー王朝と宮廷の登場を背景として、ケルト伝説やプロヴァンス文化の影響のもとに成立した文学。(4)町人の文学…12-13世紀の商業と町人の台頭を受けて現れた、陽気で人間臭い卑俗な文学。フランス文学のゴーロワ精神(esprit gaulois)の源流とされる。(5)教訓文学…中世文化の最盛期に道徳的教化を意図して書かれた文学。 |
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| 宮廷風文学 | 町人の文学 |
聖者伝 | 「円卓物語」 | 『ファブリオ』 |
『聖ユーラリー』 | 「トリスタン物語」 | 『狐物語』 |
叙事詩 | 「聖杯物語」 | 教訓文学 |
『ロランの歌』 | 『オーカッサンとニコレット』 | 『薔薇物語』 |
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最初の一冊 |
・『ロランの歌』 |
・『トリスタンとイズー』 |
・『狐物語』 |
・ロリス『薔薇物語』 |
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12世紀後半から13世紀にかけて増加した武勲詩を、ひとりの英雄を中心に再分類した作品群がcycleであり、また南仏のトルバドール(troubadours)と呼ばれる吟遊詩人たちによって歌われた叙情詩が、プロヴァンス文学の源となった。『ランスロ』『ペルスヴァル』など円卓物語の作者クレチヤン・ド・トロワ、トリスタン物語を歌ったトマやマリ・ド・フランスの名も忘れてはならない。『薔薇物語』はギョーム・ド・ロリスによって正編(1225-1240)が書かれ、のちジャン・ド・マンによって続編(1275-1280)が書かれた。 |
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中世後期(14・15世紀) |
イギリスとの百年戦争(Guerre de Cent Ans, 1337-1453)、エティエンヌ・マルセルの乱、ジャックリーの乱などにより、次第に社会不安と貧困がフランス社会を覆う。こうした状況を反映して、中世後期の文学では陰惨なレアリスムの傾向が強まる。演劇では奇蹟劇(miracles)、聖史劇(mystères)のほか喜劇が発達し、教訓劇(moralité)、阿呆劇(soties)、笑劇(farce)といった形式を生んだ。また作詩法を改革したギョーム・ド・マショーや、中世最大の詩人としてフランソワ・ヴィヨンがいる。 |
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演劇 | 物語 | 叙事詩 |
グレバン(聖史劇) | 『結婚十五の喜び』 | マショー |
ミシェル(聖史劇) | 『若きジャン・ド・サントレ』 | クリスチーヌ・ド・ピザン |
『ピエール・パトラン先生』(笑劇) | 『新百物語』 | シャルル・ドルレアン |
| | ヴィヨン |
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最初の一冊 |
・『結婚十五の喜び』 |
・『ヴィヨン詩集』 |
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『若きジャン・ド・サントレ』の作者はアントワーヌ・ド・ラ・サル。ヴィヨンは殺人や強盗に手を染めて牢獄生活を送った異端の詩人である。1462年に消息を絶ち、没年は不明。ほかに中世後期の詩人としてウスターシュ・デシャンの名を挙げておく。 |
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「最初の一冊」は、その時代の文学を知るのに適した有名かつ易しい作品で翻訳を入手しやすいものを、主観的に選んだ。
参照文献
- 渡辺一夫・鈴木力衛『増補 フランス文学案内』(岩波文庫、1961年)p24-50
- 河盛好蔵ほか『プレシ フランス文学史』(駿河台出版社、1997年)p1-17