巡礼に向かう人々の口から語られる諷刺や教訓物語の宝庫。
"The Canterbury Tales", 1387-1400
『完訳 カンタベリー物語(上・中・下)』(桝井迪夫訳、岩波文庫、1995年)
【1】 『千一夜物語』とか『デカメロン』のような、いわゆる枠物語が私はけっこう好きである。この種の作品はたいてい長いし、それでいて一つひとつの小編が独立しているので、少しずつ楽しみながら、いつまでもゆっくりと読みすすめることができるからだ。本を読む楽しみ、というものを最も純粋な形で感じることができるのは、私の場合、こういう本を読むときなのである。 【2】 本書『カンタベリー物語』もまたそのような枠物語である。カンタベリーに巡礼に赴く一行が、旅の途中でそれぞれ自分の知っている話を披露する、というのがこの物語の「枠」になっており、その中で、さまざまな階層の人々の、さまざまな話が展開される。 学僧が語る貞女グリゼルダの受難の話は、ほとんど同じ内容のものが、ペローの童話集(1695、1697)の中にもある(「グリゼリディス」)。さらに、本書で語られるものも、話者がペトラルカから学んだ、とされている。ある物語がいろんな経緯で他の国に伝わったり、他の作家に影響を与えたりする過程について、最近興味が出てきたので、こういう発見は楽しかった。 |
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