怪奇趣味も露わな大作家ユゴーの処女小説。
"Han d'Isrande", 1823
『世界の文学7 ユゴー デュマ』(中央公論社、1964年)所収(島田尚一訳)
【1】 この話は上掲書では『氷島奇談』という題名で翻訳されている。ユゴーが21歳の時の処女小説(注)だそうである。 (注)ユゴーは本作にさきだって『ビュグ・ジャルガル』を執筆しているが(1819年)、刊行は本作のほうが早い。 【2】 話の筋としては、政敵として対立する二人の政治家をめぐる陰謀のゆくえ、というものなのだが、物語の展開のいたるところでカギを握っているのがこのハンという男なのである。シュマッケル元伯爵は政治的に失脚して監獄に幽閉されており、その娘エテルと愛し合う若者オルデネルが、シュマッケルの汚名をすすぐための証拠をハンが持っていると信じてハンからそれを手に入れるために旅立つ。他方、ダーレフェルド伯爵はシュマッケルに反逆罪の汚名を着せて死刑にすることを画策し、鉱山の王室管理に不満をもつ坑夫たちに働きかけて、シュマッケル解放の名目で反乱を起こさせることをたくらみ、その首領にハンを据えようとしてハンを探している。 【3】 この作品が収録された『世界の文学7』は、実家にあった父の本を借りてきたものである(昭和39年発行、637ページ二段組で定価390円!)。たまたまこの本を家で見つけなければ、私はこの作品の翻訳の存在すら知らなかっただろう。こんなに面白い作品が、ちゃんと翻訳があるのにどの文庫にも入っていず、30年以上も前の全集に収録されているだけ、というのは非常にもったいない気がする。 「不幸は人間を疑い深くするものなのじゃ。ちょうど繁栄が人間を恩知らずにするようにな。」 ――シュマッケル(25ページ) |
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