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私訳『プラッサンの征服』

ルーゴン・マッカール双書第4巻にあたるゾラの『プラッサンの征服(La Conquête de Plassans)は、ある家系に属する人々を遺伝的体質と社会環境の双方に規定されるものとして描き出そうとした「双書」の基本構想をかなり忠実に実現した作品として、双書中初期の傑作のひとつにかぞえられている。

本作刊行後の1874年9月、フローベールはジョルジュ・サンドにあてた手紙の中で次のように書いたという。
「ゾラの『プラッサンの征服』は六ヶ月で千七百部しか売れず、一つの批評もあらわれなかった。フランスは病気だ」
(『世界文学大系41 ゾラ』(筑摩書房、1959年)484ページ、河内清氏の紹介から孫引き)

私訳『プラッサンの征服』本文
(現在、全23章中第3章まで訳了)


『プラッサンの征服』について

 『プラッサンの征服』は、『居酒屋』でのゾラの成功に先立つ初期の作品であるためか、これまでわが国ではそれほど注目されず翻訳も存在しなかった。だが本作は双書における初期の佳作であるばかりでなく、またルーゴン家とマッカール家との結びつき、そしてこれ以降のムーレ家の物語の出発点となっている点で、双書の構造的把握のためにも比較的重要な作品と言うことができる。本作の主人公であるフランソワとマルトの子どもたちが、第5巻『ムーレ神父の罪』、第10巻『ごった煮』、第11巻『ボヌール・デ・ダーム百貨店』などにおいてムーレ家系の物語を形造っていくわけであり、マッカール家の物語群が『居酒屋』を拠点として展開されているのと同じ意味で、ムーレ家の物語群の拠点となっているのが、本作『プラッサンの征服』なのである。

『プラッサンの征服』関連系譜(物語開幕時)

物語開幕時の背景
 帽子職人ムーレとユルシュール・マッカールとの長男フランソワはプラッサンで酒屋となり、ピエール・ルーゴンの末娘マルトと結婚して三人の子どもを持っている。二人の息子オクターヴとセルジュ、そして知恵遅れの娘デジレである。
 長男オクターヴが18歳となっている1858年9月から、物語は始まる。

『プラッサンの征服』をめぐる断片集

河内清氏の評価
「第四巻『プラッサンの征服』(一八七四年)は初期の優れた力作である。(……)この作品では怪僧フォジャのプラッサンの征服が一番中心のテーマとなり、それを背景にマルトとフランソワ・ムーレの悲劇、殊にマルトの遺伝的な神経病の発生から死に至るまでの経過が甚だ綿密にたどられている。けだしこれはゾラが『ルーゴン・マッカール』叢書の総序の中で述べている意図に最も近い作品であろう。つまりこの家系の二三の人物をとらえて、その遺伝的体質と社会環境とを探究し、神経病の発現の過程を詳細に述べている。ただ叙述があまりに微細綿密で、いささか単調である。しかしゾラの理想に近い一傑作であるといえよう。四十歳にして不幸にもフォジャに少女のような恋をおぼえたマルトの描写には、まことに真実をえぐつた美しいいくつかの絶章がある。しかしこの作品も亦一部の人々をのぞいては、ほとんど文壇からも読者からも注意されなかつた。けだし余りにも陰鬱な現実の世界で、読者にいささかも甘美な夢や遊びをあたえなかつたことも大いに理由しているであろう。」
河内清『エミール・ゾラ』(世界評論社、1949年)123-126ページより引用、旧漢字を新字体に置換

清水正和氏によるあらすじ
「政治的野心の強い怪僧フォージャが、赴任した南仏プラッサンの町を征服していく話、いわゆる悪僧物語である。彼は策謀をめぐらし、司祭から副司教にまでのし上がり、寄留先の親切なフランソワ・ムーレ夫妻(二人はルゴン=マッカール家系中、義理のいとこ関係)を発狂にいたらせるまで追いこみ、その家を横領してしまう。最後に精神病院を抜け出したフランソワは、自分の家に火をつけ、フォージャを焼き殺し、自らも火中にとびこんで死ぬ。妻のマルトもその火事を母の家から眺めながら、息子のセルジュ神父が看取る中、狂乱死する。」
清水正和『ゾラと世紀末』(国書刊行会、1992年)301ページより引用

朝比奈弘治氏によるあらすじ
「ムーレ家の物語群は、ユルシュールの長男フランソワの一家において華々しい展開を見せる。彼は従妹にあたるピエール・ルーゴンの末娘マルトと結婚して三人の子供を作り、ここにムーレ=ルーゴンの一家系ができあがる。夫婦はマルセイユで酒類の卸売り業を営んで財産を作り、幸福な家庭を築くのだが、引退してプラッサンに戻った時から破局が始まる。彼らはフォジャスと名乗る神父を下宿人として家に入れるが、この神父は実は、正統王朝派が主導権を握るプラッサンを帝政派の町に変えるためパリから送りこまれた人物だったのだ。こうして平和な家庭は、政治と宗教とさまざまな野心が入り乱れる策謀の巣と化す。神父の強烈な力に魅入られたマルトは狂ったように信心に打ちこんで夫を憎みはじめ、子供たちは家を出て家庭は崩壊する。身の置きどころのなくなった夫フランソワは、ついに狂気の発作に襲われて家に火をつけ、夫婦ともども身を滅ぼしてしまう。」
朝比奈弘治編「世界文学キイノート」(『ギャラリー世界の文学 フランスII』(集英社、1990年)所収)1387ページより引用

関連事項

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