千一夜物語マルドリュス版|凡例と注記

凡例と注記

準拠文献

『千一夜物語』(全10巻、佐藤正彰訳、ちくま文庫、1988-1989年)
書名 発行日 ISBN 書店リンク
千一夜物語1 1988-03-29 4-480-02211-2 Amazon
千一夜物語2 1988-04-26 4-480-02212-0 Amazon
千一夜物語3 1988-05-31 4-480-02213-9 Amazon
千一夜物語4 1988-06-28 4-480-02214-7 Amazon
千一夜物語5 1988-07-26 4-480-02215-5 Amazon
千一夜物語6 1988-08-30 4-480-02216-3 Amazon
千一夜物語7 1988-09-27 4-480-02217-1 Amazon
千一夜物語8 1988-10-25 4-480-02218-X Amazon
千一夜物語9 1988-12-01 4-480-02219-8 Amazon
千一夜物語10 1989-01-31 4-480-02220-1 Amazon

データ凡例

 数多くの説話をその内に蔵する『千一夜物語』は、単に個々の物語を配列した体のものではなく、枠構造と呼ばれる重層的な仕組みをもっている。物語の開幕後まもなく才女シャハラザードが登場し、シャハリヤール王の無聊を慰めるため夜毎に興味深い物語を語って聞かせるのだが、その物語の登場人物が作中でまた別の物語を語り、さらにその登場人物が別の物語を……といった具合に、物語が幾重もの重層構造をなして展開してゆく。つまり話し手自身が身を置いている物語を一時保留して、次々と脱線が繰り返されていく仕組みになっているのである(下図参照)

枠構造

 「物語の中の物語」へと際限なく寄り道していくこの物語を存分に楽しむためには、いま読んでいる物語が、積み重なった重層構造のどの水準にあるのかを見失わないようにすることが肝要である。当データベースはその構造理解を手助けすることを主目的としており、枠深度という概念を導入することにより各々の物語の位置づけを整理している。

作中話と枠深度

 まず、作者が読者に向けて語りかけるという一般的な物語の水準が存在する。これを最外枠と呼び、枠深度=1とする。枠深度=1の物語は『千一夜物語』そのものにほかならないが、特に最外枠であることを表すために、作品全体を指す場合と区別して「千一夜物語(最外枠)」と表記する。

(注) 最外枠は他のすべての作中話を含む物語であるから、本来その数は一つである。すなわち、シャハラザードが語り始めるまでの「千一夜物語(最外枠)」と、シャハラザードが語り終えた後の「大団円」は、理屈のうえでは単一の物語の初めと終わりに相当することになる。しかしながら両者の間には膨大な数の物語が挟み込まれていることから、このデータベースでは便宜上これらを別の物語として処理し、いずれも枠深度=1とした。「千一夜物語(最外枠)」で始まった物語は重層的に挿入される数々の作中話を経て、最後に「大団円」に戻ってくることになる。

 物語の作中人物が語る別の物語を作中話と呼ぶ。最外枠の作中人物が語る作中話枠深度=2とする。シャハラザードがシャハリヤールに向けて語る物語がこれに相当する(注)。そして枠深度=2の物語の作中人物が語る作中話を枠深度=3とし、枠深度=3の物語の作中人物が語る作中話を枠深度=4とする。作品全体を通じて最大の枠深度は4である。また物語の話し手について、枠深度の値に対応させて「第2水準の話し手」のように表現することがある。

(注) 枠深度=2の物語とはシャハラザードが直接語る物語のことだと考えてよいが、例外が一つだけ存在する。シャハラザードがシャハリヤールの臥床に侍るよりも前に、父の大臣がシャハラザードに向かって語る「ろばと牛と地主の間に起こったこと」という物語が存在し、目次には現れないものの作中話の一つとみることができる。これは最外枠の登場人物によって語られる作中話であるから枠深度=2となる。

構成話

 物語の中途に固有の題名をもつ別の物語が挿入されたり、ある物語が固有の題名をもついくつかの物語から構成される場合がある(注)。これらの場合、話し手の水準が垂直方向に深化(それまでの作中人物が新たな物語を語ること)していない限り、作中話とはみなさない。

(注) 前者の例としては第129夜から始まる「ドニヤ姫と王冠太子との物語」。大臣が語る「アズィーズとアズィーザとうるわしき王冠太子の物語」の途中から始まるが、話し手は大臣のままで変わらず、単に話の一部分を固有の題名でくくったに過ぎない。後者の例としては373夜から始まる「アル・ラシードと放屁」など21編の小話。シャハラザードが語る「花咲ける才知の花壇と粋の園」がこれら21編の小話から成っているのであって、シャハラザードが語る21編の小話は作中話ではなく「花咲ける才知の花壇と粋の園」の構成要素である。

 作中話とはみなさないこれらの物語も、訳書の目次や見出しで別個に扱われていたり、分量的には一話に匹敵するものが存在する。そこでこれらを構成話と称することとし、検索の便を考慮して、枠構造に準じてその帰属関係を表示することにした(注)

(注) 準拠文献における目次や本文中の見出しは、文字の大きさや字下げを活用して枠の重層性を表示しているが、ここにいう枠深度と構成話の違いを厳密には表示していない。このデータベースでは文献の表示を参考にしつつも、あくまで物語の構造に即して両者を区別していくことにする。

 構成話の枠深度は、上位の物語の枠深度に「+」を付けて表示する。たとえば枠深度=2の「鳥獣佳話」の一部を構成する「鵞鳥と孔雀夫婦の話」は、枠深度=2+となる。枠深度の数値部分が2であることで、この物語の話し手があくまでも第2水準であることが示される。また構成話が真正の作中話をもつ場合があるが、そのときの作中話の枠深度は、もとの物語の枠深度の数値部分に1を加えた値となる。たとえば枠深度=2+の構成話が作中話をもつとき、その作中話は枠深度=3である。

上位・下位・等位

 物語相互の階層関係を言い表すために、上位下位等位という語を用いる。ある物語の作中人物が語る別の物語を、もとの物語から見て下位の物語と呼び、下位の物語から見たときにもとの物語を上位の物語と呼ぶ。つまり下位の枠は上位の枠より枠深度が1だけ大きい。また、同一の物語に属する複数の下位の物語を相互に等位の物語と呼ぶ。等位の物語の間では、語られるのが早い順に基づいて序列が設定されるものとする。一つ先順位の等位の物語を前の物語、一つ後順位の等位の物語を次の物語と称する。

 構成話とその全体との相対関係を表す際には、枠深度が変動する場合に準じて上位、下位、等位の語を用いるものとする。たとえば枠深度=3の物語と、それに属する枠深度=3+の物語は、上位・下位の関係にあるとみる。構成話が複数あるときは、それらは相互に等位の関係である。ただし作中話と構成話は、上位の物語が同一であっても相互に等位の物語とみなさない(注)

(注) 例としては第112夜から始まる「美男アズィーズの物語」と第129夜から始まる「ドニヤ姫と王冠太子との物語」。どちらも第107夜から始まる「アズィーズとアズィーザとうるわしき王冠太子の物語」(枠深度=3)を上位の物語としてもつが、前者は作中話(枠深度=4)であり、後者は構成話(枠深度=3+)である。これらは等位の物語ではない。

枠構造ボックス

 物語の上位・下位の関係は、各ページで「枠構造」と題したボックスに図示されている。この図では題名の字下げ(インデント)を用いて物語の階層構造が表現されている。作中話も構成話も同様に字下げされているが、題名の冒頭に「」が付されている物語は構成話である。

文献に関する覚書

 物語の枠構造をデータ化するにあたって、訳書の目次や見出しによって含意されるのとは異なる解釈をした部分、およびその他の注意点を以下に記す。

第1巻

第3巻

第5巻

第7巻

第8巻

表現に関する注記

 準拠した訳書(1988年-1989年刊、底本は1960年代)には、現在ではあまり用いない表記(「サラセン」)や、現在では異なる表記が通例となっているもの(「ハールーン・アル・ラシード」)が存在する。引用に際してはこれらの語をそのまま用いざるを得ないが、そのほか表記の統一性を考慮してあえて使った場合がある。

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