あらすじ
作者が語る「千一夜物語」の、
作中人物であるシャハラザードが語る。
賢人ダニアルは自分の知識の精髄を一枚の紙片にまとめ、身ごもっている妻に託して世を去った。まもなく生まれた子はハシブと名づけられたが、青年期に一つの危険が降りかかることを占星学者によって予言される。無学なまま成長したハシブは結婚して木樵となるが、ある日、仲間たちの悪意により洞穴の奥に置き去りにされ、死んだことにされてしまう。洞穴に隠された秘密の通路をたどって美しい地下の王国にたどり着いたハシブは、下半身が蛇身の女たちと、その女王ヤムリカに歓迎される。ヤムリカ女王はハシブを手厚くもてなし、若きブルキヤ王の物語を語った。
ヤムリカ女王は他にも語るべき多くの物語があることを説いてハシブを引き留めようとするが、残してきた母と妻を気遣うハシブの懇願に負けてハシブの出立を認める。ただし、今後一生の間浴場で風呂を使わぬようにとハシブに固く言い含める。送り届けられて家に帰還したハシブは、母や妻と再会し、自分を陥れた仲間たちの罪も許して商人として栄える。しかし、ある日風呂屋の主人に入浴を勧められたハシブは、固辞したにもかかわらず強引に入浴させられたところ、突然踏み込んできた警吏によって王宮に引き立てられる。総理大臣(ワジール)は、重病にかかった王を癒すためにヤムリカ女王の処女なる乳が必要であることを調べあげ、ヤムリカ女王を訪問した者はその後に初めて入浴した時に腹の皮が黒くなることを知って、すべての浴場を間者に見張らせていたのだった。黒くなった腹を暴かれて拷問にかけられたハシブは、やむなく屈服して地下の王国の入口に総理大臣を案内させられる。呪術を用いて呼び出されたヤムリカ女王は憤りながらも、二本の乳の瓶を渡してハシブに策を授ける。ハシブが第一の瓶の乳を王に飲ませると病はたちまち快癒するが、欲に駆られて第二の瓶を飲み干した大臣は全身が破裂して死ぬ。ハシブは新たな総理大臣となって栄華をきわめ、政務に必要な読み書きを学びすすめるうちに、賢人であった父ダニアルの遺産に思いいたる。母から手渡されたただ一枚の紙片には、父の全知識の精髄として、アッラーとムハンマドを讃える簡単な言葉が記されていた。