ファングの街を治めるサカムビット公(Baron Sukumvit)は、街はずれに「死のワナの地下迷宮」(Deathtrap Dungeon)と呼ばれる恐るべき迷宮を作り、一年に一度、そこを舞台とする血なまぐさい娯楽に興じていた。命取りの罠や獰猛な怪物を配置した地下迷宮に熟達の戦士たちを送りこんで、賞金の金貨一万枚をかけた苛酷な生き残りの競技を演じさせていたのである。この「勇士の挑戦」(Trial of Champions)に挑んだ者たちはことごとく命を落としたが、ある年、勇敢な一人の冒険者によって迷宮が制覇されると、サカムビットは迷宮を作り直し、賞金を金貨二万枚に引き上げた。こうして恐るべき迷宮探検競技は、アランシアにさらなる悪名をとどろかせることになった。
サカムビット公が大陸中から注目を受けるのを快く思わなかったのが、弟のカーナス卿(Lord Carnuss)である。兄の名声を妬み憎んだカーナスは、「勇士の挑戦」に匹敵するような盛大な競技をみずから主催することで、兄への賛嘆を横取りしようと企てた。彼は数百人もの奴隷の命を惜しみなく費やして、狡知の限りを尽くした凶悪な「絶望の迷宮」(Dungeon of Despair)を、自分が支配するブラッド島(Blood Island)に建設した。そして金貨二万五千枚に相当すると言われる至宝「ファングの黄金宝珠」(Golden Orb of Fang)を賞品として迷宮内に隠し、彼自身の迷宮探検競技への出場者を大陸中から募ったのである。その宝珠がもともとはサカムビットの所有物だったことから、兄弟の確執は頂点に達する。宝珠を取り戻すべく配下の戦士を参加させてはどうかとカーナス卿が兄を挑発すると、サカムビット公はあからさまな呪詛の仕打ちで応じるのだった。
冒険者である君は、たまたま滞在していた街で競技の開催を聞いて心惹かれる。カーナス卿が出場者と観衆とを招き集めるため各地に派遣していた船に、君は迷うことなく乗り込み、乗り合わせたもう一人の出場志願者・ドワーフのサンプ(Thump)とともにブラッド島を目指す。競技の前日に会場に到着した君たちは、盛大な祝祭に熱狂する大群衆に迎えられ、苛酷な試練を前に手厚くもてなされる。各地から集まったありとあらゆる種類の猛者たちが、莫大な値打ちの賞品を我がものとしようと、抜け目なく互いをうかがっていた。
競技当日の朝、集められた出場者は全部で120人。「絶望の迷宮」に入ることを許されるのは、そのうち12人に過ぎないことがカーナス卿から告げられる。生きて出られるかも分からぬ危険な迷宮に入る権利を得るために、君たちはまず、予選が行われる「死の闘技場」(Arena of Death)で、互いの力を競い合わなければならないのだ。カーナス卿の最後の言葉とともに、生き残りと莫大な財宝を賭けた血まみれの競技が幕を開ける。
※『迷宮探検競技』の邦訳(1987年、社会思想社版)ではカーナス卿をサカムビット公の「兄」としていたが、カーナス卿のほうが弟である。本作中に「カーナス卿の年齢当て」のパズルが登場することで、カーナスのほうが年下だと判明している。
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