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過労自殺

具体的な現状認識に基づき解決策を探るすぐれたレポート。
川人博『過労自殺』(岩波新書1998年)


【1】 この本で取りあげられている事件のひとつである電通過労自殺事件については、私も第一審判決の全文を読んだ(判例タイムズ906-163)が、たしかに常軌を逸した労働環境であり、電通側に弁解の余地はほとんどないように思える。
 しかし、過労自殺の犠牲者像について、「能力や素質に恵まれた、明朗活発で意欲的な人ほど、そのまじめさ・勤勉さゆえに、無理を重ねて過労に陥りやすい」というアプローチには、私は違和感を覚える。それは、オウム事件のときに、「一流大学を出た優秀な技術者や研究者がなぜオウムに走ったのか」というタイプの問題認識に対して感じた違和感と同質のものである。

【2】 亡くなった人たちのことを悪く言いたくはないけれど、自殺するほどつらかったのに、会社を辞める、という決断すらできなかったような人のどこが「能力や素質に恵まれている」のだろう。まじめさとは、自分の心を注意深く観察しつづけることへの怠惰と、自分の幸福についての自律的決断が欠如していたこととを、体よく言いかえてごまかしただけではないのか。大切なことの優先順位も判断できなくて、ただ「意欲的」であったりすれば、特定の組織への盲目な忠誠、そしてその組織への殉教ないし心中、という経過をたどって破滅していくであろうことは不思議でもなんでもないのである。

ノート
字数:550
初稿:1999/11頃
初掲:1999/12/01
リンク
岩波書店
参考文献・関連事項
コメント
 
本文=黒字 ・ 要約=赤字引用=青字

参考文献

  1. 井上達夫『現代の貧困』(岩波書店、2001年)
    本書に言及している。

関連事項

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