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生きる思想

現代文明への鋭い批判が冴える、著者近年の論文集。
Ivan Illich
イヴァン・イリイチ『生きる思想〔新版〕』(桜井直文監訳藤原書店1999年)


【1】 神学者で中世史家でもあるイヴァン・イリイチ(Ivan Illich, 1926-2002)の、比較的近年の論文を集めた書である。幅広い知識を背景として語られる彼の思想は、ときとして難解でありながらも真摯で力強く、社会に対する根源的な見方へと読者を誘って、新鮮な驚きを与えてくれる。

【2】 彼の扱っている論点は多岐にわたり、容易に要約することはできないが、その骨格をあえて簡略にまとめてみせるならば、専門家によって提供される稀少な商品への依存の高まりを価値の増進とみることへの反対、であるといえよう。
 すべての人に学校教育の機会を与える。病院や医療施設を整備して人々の健康の向上に努める。失業率を下げて雇用の機会を広く開放する。高性能の自動車の開発と高速道路の整備。住宅環境の改善。そして高度情報化。先進福祉国家にみられるこのような傾向は、いっけん私たちの生活を豊かにしているようでありながら、実は、各種の専門家によって提供されるサービスが私たちにとって不可欠であるという錯覚をつくりだし、私たちをそのサービスへの依存状態に陥れることによって、生活を破壊しているのだと、イリイチは考える。

【3】 人が日常生活の中で自然に学んでいた時代から、学校で教わらないと学べない時代へ。健康とは自足していることであり、医療とは「ともに苦しむ技術」であったような時代から、病院によって健康が管理される時代へ。自分の足で行ける範囲内に人間相互の交流が成立していた社会は、自動車の登場によって、相互交流のために車輪によって輸送されなければならない社会にとってかわられた。文無しでもなんとか生きていけた時代は去り、誰もが労働力を売った賃金で商品を買わなければ生きていけない時代が訪れる。生きる技術の実践の場であった居住空間は労働力を格納するガレージと化し、情報化の進展は、コンピュータが使えなければ何もできないという、新たな貧困の契機を創り出した。そのような社会は、明らかに、豊かな社会などではない、というのが、西欧型現代社会に対する、かれの極めてまっとうな批判なのである。

健康とは、まさに、サービスを受けるということではなく、サービスには頼らないということなのです。(233ページ)

ノート
字数:900
初稿:1999/11頃
初掲:1999/12/01
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藤原書店
参考文献・関連事項
コメント
 
本文=黒字 ・ 要約=赤字引用=青字

参考文献

  1. 辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社、2001年)
    加速化する現代社会に対し「遅さとしての文化」を提唱。イリイチの思想にも共鳴している。

関連事項

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