19世紀は、フランスがその史上もっとも目まぐるしい政変を経験した百年である。革命後の統領政府からナポレオンの帝政、王政復古と七月王政を経て、第二共和政、第二帝政、そして世紀末の第三共和政へ。大革命による精神的解放に引きつづく倦怠と成熟、革命とクーデターによる社会不安、国民国家の成熟と高度産業社会への歩み、そして階級闘争の激化とが、人々と社会を否応なしに巻き込んで展開していった。 しかしこの激動の時代のなかで、それでも作家たちの創造性は多様な展開を見せ、いくつかの大きな文学潮流を形成する。感性と想像力を解放して創造性の自由な飛翔を可能にしたロマン主義、社会の実相をありのままに把握しようとする写実主義、自然科学を導入して人間性の解剖に挑む自然主義、言葉によって超越への道を開こうとする象徴主義などが、時代の相と関わりながら登場し、フランスの文学を特徴づけていったのである。同時にまたこの世紀は、17世紀を演劇の世紀、18世紀を哲学の世紀とするなら、「小説の世紀」と呼ぶにふさわしいものでもあった。 現代にまで残る無数の傑作を生み出した19世紀は、フランス文学史上でもひときわ豊産な世紀として、輝かしい地位を占めているのである。 |
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