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19世紀文学史

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 19世紀は、フランスがその史上もっとも目まぐるしい政変を経験した百年である。革命後の統領政府からナポレオンの帝政、王政復古と七月王政を経て、第二共和政、第二帝政、そして世紀末の第三共和政へ。大革命による精神的解放に引きつづく倦怠と成熟、革命とクーデターによる社会不安、国民国家の成熟と高度産業社会への歩み、そして階級闘争の激化とが、人々と社会を否応なしに巻き込んで展開していった。
 しかしこの激動の時代のなかで、それでも作家たちの創造性は多様な展開を見せ、いくつかの大きな文学潮流を形成する。感性と想像力を解放して創造性の自由な飛翔を可能にしたロマン主義、社会の実相をありのままに把握しようとする写実主義、自然科学を導入して人間性の解剖に挑む自然主義、言葉によって超越への道を開こうとする象徴主義などが、時代の相と関わりながら登場し、フランスの文学を特徴づけていったのである。同時にまたこの世紀は、17世紀を演劇の世紀、18世紀を哲学の世紀とするなら、「小説の世紀」と呼ぶにふさわしいものでもあった。
 現代にまで残る無数の傑作を生み出した19世紀は、フランス文学史上でもひときわ豊産な世紀として、輝かしい地位を占めているのである。
関連事項
19世紀作家リスト
19世紀文学年表
キーワード
世紀病
ロマン主義
ロマン派四大詩人
写実主義(レアリスム)
自然主義
高踏派
象徴主義(サンボリスム)
ロマン主義準備期(1795-1820)
 革命直後の動揺を続けるフランス社会で、文学は18世紀啓蒙主義を継承しつつ新しいロマン主義時代への模索を始める。セナンクールの『オーベルマン』は絶対を渇望しながら挫折してゆく自意識過剰の精神=世紀病(mal du siècle)の予兆をなし、コンスタンは繊細な心理描写で名高い『アドルフ』を残した。そのほか、ドイツ文学の紹介を通じて視野の拡大を説いたスタール夫人、宗教感情を情緒的・美学的に洗練してロマン主義の範となったシャトーブリアンなどがいる。
  小説 (革新) ← 哲学・思想 → (保守)
  セナンクール サン=シモン ロワイエ=コラール
  コンスタン フーリエ メーヌ・ド・ビラン
文芸批評 X・ド・メーストル  バランシュ
スタール夫人 クーリエ J・ド・メーストル
シャトーブリアン    
最初の一冊
セナンクール『オーベルマン』
コンスタン『アドルフ』
スタール夫人『ドイツ論』
シャトーブリアン『アタラ』
 スタール夫人は革命直前の首相ネッケルの娘で、女権拡張論の嚆矢ともされる。この時期の詩と演劇は総じて貧困であるが、メロドラム(mélodrame)と呼ばれるロマネスク趣味のジャンルが成立した。社会思想の領域では世紀半ば以降に影響力を発揮する空想的社会主義(サン=シモンやフーリエ)が登場。また、イギリスの恐怖小説を母体とする推理小説の先祖ロマン・ノワール(roman noir)が成立し、大衆に愛読された。

ロマン主義時代(1820-1850)
 スタール夫人やシャトーブリアンの影響のもと、1820年頃から、理性重視の古典主義に代わり感性と想像力を自由に飛翔させようとするロマン主義(romantisme)の運動が強まる。1900年前後に生まれた作家たちはノディエのサロン・ド・ラルスナル(Salon de l'Arsenal)やユゴーのセナークル(Cénacle)といったサロンに集まり運動を推進していった。
 ユゴーの『エルナニ』初演(1830)とともに、ロマン主義の最盛期が訪れる。(1)メランコリー(2)狂気と幻想(3)異国趣味(4)人道主義(5)神秘主義などを特徴とするロマン主義は、ロマン派四大詩人(ラマルチーヌユゴーヴィニーミュッセ)によって唱導され、詩・戯曲・小説のそれぞれの分野で多くの傑作を生んだ。そのほかに、芸術至上主義(l'art pour l'art)をとなえたゴーチエ、その神秘的夢想がのちの超現実主義に影響を及ぼしたネルヴァルなどがいる。
 いっぽう、七月王政のもとで作家たちの社会的関心が高まり、レアリスムの時代が近づく。『人間喜劇』により王政下のフランスを隈なく描こうとしたバルザック、心理小説の輝かしい伝統に立つスタンダールが、レアリスムの偉大な先駆者である。また、歴史学を集大成したミシュレ、批評を文学ジャンルとして確立したサント・ブーヴの功績も見落とすことはできない。
ロマン主義
小説 戯曲 デボルド=ヴァルモール
ノディエ   ボレル
ラマルチーヌ     ベランジェ
ユゴー ベルトラン
ヴィニー   ゲラン
ミュッセ  
ゴーチエ    
ネルヴァル    
レアリスムの先駆 その他の小説家 その他
バルザック サンド コント(哲学) チエリー(歴史)
スタンダール デュマ・ペール プルードン(思想) ギゾー(歴史)
メリメ シュー ラムネー(思想) トクヴィル(歴史)
  シャンフルーリ サント=ブーヴ(批評) ミシュレ(歴史)
最初の一冊
ノディエ『スマラ』
ユゴー『諸世紀の伝説』
ヴィニー『運命』
ミュッセ『ロレンザッチョ』
ネルヴァル『オーレリア』
ベルトラン『夜のガスパール』
バルザック『ゴリオ爺さん』
スタンダール『パルムの僧院』
メリメ『カルメン』
サンド『愛の妖精(プティト・ファデット)』
デュマ・ペール『モンテ・クリスト伯』
 「詩は感動の結晶」(ヴィニー)、「夢は第二の人生」(ネルヴァル)などの言葉がロマン主義を要約している。ミュッセとサンドの熱烈な恋愛は両者の文学的業績に大きな影響を残した。なお、ロマン派四大詩人にネルヴァルを加えて五大詩人と称することもある。
 バルザックは『人間喜劇』において人物再登場(retour des personnages)の手法を確立。デュマ・ペールは『三銃士』などにより現在でも親しまれている。またコントの実証主義(positivisme)、プルードンの無政府主義などが、世紀後半の進歩と波乱を暗示する。

実証主義とレアリスム、イデアリスムと象徴主義(1850-1890)
 第二共和政の失敗と第二帝政下の相次ぐ失政はやがて普仏戦争の敗北(1871)をもたらし、フランスはパリ・コミューン(Commune de Paris)を経て第三共和政へと至る。混乱の時代にあって作家たちは挫折感を深め、世紀末の対照的な二つの文学潮流、写実主義(réalisme)とイデアリスムを生んだ。
 急速に発展する自然科学と実証主義思想の影響により、客観的描写、没個性主義、科学的方法などを特徴とするレアリスム文学が確立される。近代レアリスムの師とされるフローベールが傑作『ボヴァリー夫人』を残し、ゾラはレアリスムを発展させて自然主義(naturalisme)を提唱した。
 他方ロマン主義的感傷は、大詩人ボードレールや、社会的効用への無関心と美への信仰を説く高踏派(École parnassienne)の詩人たちに媒介されて、象徴主義(symbolisme)の詩へと連なる。言葉の内的な力により感覚的世界を超えた形而上的認識に到達しようとするサンボリスムは、ヴェルレーヌランボーマラルメなどの個性的な詩人を生み、20世紀の超現実主義への道を開いた。









小説
フローベール
ゴンクール兄弟
ゾラ
ドーデ
モーパッサン
ヴァレース
スクリーブ
オージエ(写実劇)
デュマ・フィス(写実劇)
サルドゥー(写実劇)
ラビッシュ(写実劇)
メイヤック(写実劇)
アレヴィ(写実劇)
ベック(自然主義劇)
その他
クーランジュ(歴史)
ルナン(歴史・宗教)
テーヌ(歴史・批評)
高踏派









ルコント・ド・リール
バンヴィル
シュリ=プリュドム
コペ
エレディヤ
マンデス
ボードレール
ランボー
ロートレアモン
ヴェルレーヌ
象徴派
ラフォルグ
マラルメ
モレアス
イデアリスムの小説
フロマンタン
バルベー・ドルヴィ
ヴィリエ・ド・リラダン
ユイスマンス
ブロワ
最初の一冊
フローベール『ボヴァリー夫人』
ゴンクール兄弟『ジェルミニー・ラセルトゥ』
ゾラ『ナナ』
ドーデ『サフォ』
モーパッサン『脂肪の塊』
デュマ・フィス『椿姫』
ルナン『イエスの生涯』
ボードレール『悪の華』
ランボー『飾り絵(イリュミナシオン)』
ロートレアモン『マルドロールの歌』
ヴェルレーヌ『言葉なき恋歌』
マラルメ『逍遥集(ディヴァガシオン)』
フロマンタン『ドミニック』
ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』
ユイスマンス『さかしま』
 フローベールの『ボヴァリー夫人』とボードレールの『悪の華』は、奇しくも同じ1857年に風俗壊乱により告発された。日本美術の紹介でも知られるゴンクール兄弟の兄エドモンは、遺言によりアカデミー・ゴンクール(Académie Goncourt)を設立しゴンクール賞(prix littéraire de Goncourt)の由来をなす。
 象徴主義運動は憂鬱・神経症的な精神風土=デカダンス(Décadence)の土壌から生まれた。その成立を画すのはモレアスによる象徴主義宣言(1886)である。モレアスはのちにロマヌス派(école romane)を作って自ら象徴主義と訣別する。象徴派の詩には印象派的抒情詩と形而上的純粋詩の二つの傾向があるが、いずれも音楽に深く関わっている。

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